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新型コロナで納期遅れ 責任は?

中部経済新聞2020年6月掲載
新型コロナで納期遅れ 責任は?

今日のご相談ですが、お電話で概要をお聞きしたところでは、新型コロナウイルスの影響で製品を納入できない場合に、納期が遅れたことについて責任を負わなくてはいけないのか?でしたね。
そのとおりです。
御社の製品は電化製品の部品でしたよね。
そうです。下請けの形ではなく、自社で材料を調達して、完成品として部品を納入しています。納入品を製造するための材料は主に中国から輸入しているのですが、今回の新型コロナウイルスの影響で、現地の工場がストップしてしまい、現在は調達ができなくなっています。今までは材料のストックや製品の在庫がありましたがそろそろ底を尽き、新たに調達できなければ製造がストップする状態です。
また、自粛要請の対象にはなっていなかったものの、工場内は人も多く、密を避けるため出勤する従業員の数を減らしたため、製造能力も落ちています。
このままでは納期に間に合わない可能性が出てきました。
それは早急に対応を検討する必要がありますね。お願いした契約書は持ってきていただけたでしょうか。
こちらです。

【責めに帰することができない事由】

この契約書では、不可抗力による履行遅滞については損害賠償責任を負わないという条項がありますね。でも、不可抗力の具体的な事由は書かれていないな。
感染症は「不可抗力」にならないんでしょうか。
まず民法上の規定からご説明しますね。納期の遅れは、民法上は履行遅滞として損害賠償責任が発生しますが、「債務者の責めに帰することができない事由」については、責任を負わないとされています。「不可抗力」は、この「責めに帰することができない事由」の一例で、東日本大震災などのいわゆる天変地異がこれに該当する等とよく言われます。もっとも「責めに帰することができない事由」に該当するかどうかは、契約や取引上の社会通念に応じて判断されることになります。もちろん、契約書に規定があればまずはそれに従うということになりますが、仮に契約書に不可抗力の一例として感染症と書いてあっても、ただちに不可抗力と判断されるわけではありません。
債務者はうちの会社のことですよね。新型コロナウイルスがうちの会社のせいではないことは明らかだと思いますが...。
基本的にはそうですね。もっとも、今までも新型インフルエンザの流行が取り沙汰されたことはありますので、感染症の拡大による影響が予測できなかったわけではないとして、何も対策をしていなかった場合は、責めに帰することができない事由ではないと判断される可能性も全くないわけではないと思います。

【調達遅れによる納期遅延】

感染症以外にも調達ができない可能性はありますので、そのことも考慮して材料をストックしたり、複数の調達先を確保しています。しかし、今回はどこもだめになってしまって...。
これだけ世界中に影響が広がっていれば、そのような対策をしたうえでもなお生じた新型コロナウイルスの蔓延による調達遅れについては、責めに帰することができない事由と判断される可能性はかなり高いと思います。

【出勤調整による納期の遅れ】

では、人を減らした点についてはどうでしょうか。
そこがなかなか微妙かもしれません。仮に国や地方自治体から操業停止の指示が出ていれば、責めに帰することができない事由に該当するといってよいと思います。自粛の要請にとどまる場合にも、公的機関からの要請に応じての営業縮小であれば、該当するといえる可能性も高いです。しかし、指示や要請はないが自主的に休業や出勤調整をした場合は、あくまで経営者の判断によるものということになりますので、判断が異なる可能性も出てきます。
でも、政府や自治体からは、密を避けましょうとかテレワークなどで出勤せずに仕事をとか言われていますよね。工場でテレワークはできません。しかしいつもどおりの人数でシフトを組めば工場内や休憩時間中は密閉・密集・密接になってしまいます。電車通勤の従業員も多く、普通に操業して万が一工場内でクラスターが起きたらと考えて、出勤調整を決めたんですよ。
ご事情はよくわかります。この状況ですから、工場内の状況と感染症の拡大防止という観点から、出勤調整による納期遅れも責めに帰することができない事由に該当すると判断される可能性は高いとは思います。もっとも今までほとんど前例のないことですから、実際に裁判になってみなければわからないというのが正直なところです。

【納入先との調整の必要性・受領遅滞】

もし納期が遅れたら裁判にまでなってしまうんでしょうか。
いや、すぐにそういう話にはなりませんよ。まずは、納入先に事情を説明して交渉することが大事です。
そうですよね。どうやら納入先も工場の操業を縮小しているとも聞きます。もしかしたら納期通りでなくてもいいかもしれないな。もし、逆に今は納入しなくてよいといって、既に製造したものを納期通り受け取ってもらえない場合はどうなりますか?
その場合は「受領遅滞」の問題になります。民法上、債権者が債務の履行を受けることを拒み、またはこれを受けることができない場合は、これによって増加した債務履行の費用は債権者が負担することになっています。この場合の債権者は納入先ですね。
でもこの場合も、納入先の責めに帰することができない事由であるとして、費用を請求できないことになるのではないですか?
それが受領遅滞に基づく責任については、債権者の帰責事由はいらない、つまり、理由がなんであろうと発生するとされているんですよ。契約書にも特別に規定はないようなので、今回もしそうなれば納期が延びて増加した分の保管費用などを請求できます。
そうですか。その点は安心ですね。

【おわりに】

どちらにせよ、まずは事情を説明してみてください。もし、社長ご自身で交渉が難しければ、私どもで委任を受けて納入先と交渉することも可能です。
そうですか。心強いです。とにかくまず話をしてみて、またご相談します。

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