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定型約款のルールが新設されます ~定義や効力要件が明確に  変更手続は慎重に~

中部経済新聞2020年1月掲載
定型約款のルールが新設されます ~定義や効力要件が明確に  変更手続は慎重に~

先日掃除をしていたら、すごく分厚いファイルを見つけてね。保険のような長期の契約だと、申込書以外に約款をもらったり、「約款変更のお知らせ」が送られてきたりするだろう。それが全部綴じてあったんだ。捨てようとしたら、父が「捨てるな」と言うものだから、「一度でも読んだことがあるのか」と言い返してしまって、喧嘩になったよ。
でも、実は私も、約款に目を通すことは、あまりしませんよ。
えっ、いつも、私には、判を押す前に、必ず契約書の内容を確認するように言うじゃないか。でも、約款は判を押す書類ではないし、一方的に送られてきたりもするから、契約の内容ではないのかな...。
その疑問は、令和2年4月施行の民法改正で、解消されるかもしれません。社長が今後展開しようとしているウェブサイトでの小売販売にも関係ある話かもしれませんよ。

【定型約款とは】

現代社会では、取引を迅速・効率的に行うため、事業者側で準備した約款が広く使われています。同じ取引を大量に行うビジネスでは、画一的な契約条件にしておかないと、管理が困難ですからね。他方、顧客側は、サービスや物品を利用したり購入する意思があっても、約款に記載された個別の条項まで認識していないのが普通です。
保険に加入するときにはパンフレットしか見ないし、ウェブサイトで取引するときにも、スクロールだけして、同意するなんてクリックしちゃうよね。
民法の原則によれば、契約の当事者は、契約の内容を認識して意思表示をしなければ、契約に拘束されないはずですから、顧客は、読んでいない約款に拘束されないとも考えられます。ですが、一定の場合においては、約款の詳細まで把握せず取引が行われるのが通常ですし、細かいところまで読んでいない顧客を約款に拘束しても、不都合がない場合もあります。よって、今度の民法改正では、一定の約款について定型約款と定義し、契約の内容となることを認めました。
具体的には、どのような約款が定型約款となるのだい。
まず、①ある特定の者が不特定多数の者を相手方とする取引で、②内容の全部又は一部が画一的であることが当事者双方にとって合理的なものを「定型取引」と定義しました。その上で、この定型取引において、③契約の内容とすることを目的として、その特定の者により準備された条項の総体を、「定型約款」としています。
①②は、事業者と消費者との画一的な取引ってことかい。
おっしゃる通り、典型的には、不特定多数の消費者に、平等な基準や画一的なビジネスモデルで提供される、物品やサービスの契約が該当しますが、企業がワープロ用のソフトウェアを購入するときの約款のようなものも、定型約款に該当するといわれています。他方で、事業者間の原材料供給契約などは、定型約款に該当しないといわれています。
じゃあ、労働契約はどうだい。うちのアルバイトには、平等な基準で働いてもらっているし、双方にとって合理的な方法だと思っているのだけど。
アルバイトは、能力を見込んだ人を雇用しているわけですから、不特定多数の相手方との取引とはいえません。
じゃあ、ウェブサイトでの小売販売はどうだい。
不特定多数の者に、画一的な契約内容で商品を販売するのでしたら、該当する可能性がありますね。

【定型約款の組入要件】

じゃあ、定型約款が、契約の内容になる要件はなんだい。
Ⓐ定型約款を契約の内容とする旨の合意があった場合、または、Ⓑ取引に際して定型約款を契約の内容とする旨をあらかじめ相手方に「表示」していた場合には、定型約款の条項の内容を相手方が認識していなくてもこれに合意したものとみなし、契約内容となります。これを組入要件といいます。
Ⓐは定型約款の内容で契約しますという合意があれば、その定型約款が契約内容となるという意味だね。
そのとおりです。Ⓑは、あらかじめ相手方に定型約款の内容で契約すると表示している場合には、相手方が取引の際定型約款の詳細を把握していなくても、契約内容になるということです。
でも、定型約款の中に、不利な条項が入っていたら困るな。
例えば、過大な違約罰を定めた条項のように、相手方の権利を制限したり義務を加重する契約条項であって信義則に反する内容の条項は、契約内容とはなりません。また、事前に定型約款を確認してから取引したいのに、できなかった顧客まで、これに拘束させることはできませんから、定型取引を行う前に相手方から定型約款を示すよう請求があった場合には、遅滞なく示さなければならず、事業者側が正当な事由なくその請求を拒んだ場合には、定型約款の条項の内容は、契約内容にならないとされていますよ。もちろん、合意後であっても、相当期間内に請求があれば、遅滞なく定型約款を示すことが必要です。
なるほどね。じゃあ、契約後に送られてくる、「約款変更のお知らせ」は、どう考えたらいいのだい。

【定型約款の変更要件】

ここも、今度の民法改正で整理されています。長期にわたる定型取引では、法令の変更や経済情勢の変化に応じて、定型約款の内容を変更する必要が生じますが、変更にあたって、個別に相手方の承諾を得ることは難しいのが実情です。顧客の数が非常に多いこともありますし、承諾を得られないこともありえますから。
あまり影響がない約款変更で、判を押して書類を返送しなければならないと、こちらも煩雑だな。
そこで、ⓐ変更が相手方の一般の利益に適合する場合、又はⓑ変更が契約の目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無等変更に係る事情に照らして合理的な場合には、相手方の同意がなくとも、定型約款の変更が可能となりました。また、変更にあたっては、効力発生時期を定めたうえ、インターネットなどを利用して、定型約款を変更する旨、変更後の定型約款の内容、効力発生時期を周知しなければならず、効力発生前に周知しなければ、変更の効力が生じないとされました。
ⓐは分かるけど、ⓑの、合理的な場合というのは難しいな。
ⓑは、約款の変更が契約の目的に反しないことに加えて、なぜ約款の変更を行う必要性が生じたのか、どう内容を変更するのかなどを踏まえて、判断がなされます。また、変更によって、顧客側が受ける不利益の程度や性質、不利益の軽減措置がとられているかなども考慮されると考えられますから、顧客に不利益に定型約款を変更する場合には、その程度を極力小さくするとともに、変更後の定型約款に拘束されたくない顧客が、適切な時期に契約を解除できるような措置なども、検討する必要が出てくるでしょう。
なるほどね。事業者側からすれば、定型約款の変更が正面から認められて安心できる反面、その変更にあたっては、効力が否定されないように、慎重な対応が必要になるね。
そうですね。また、顧客側からすれば、変更についてⓐ又はⓑの要件が整っていれば、直近の定型約款の内容が、今の契約の内容ということで整理されたわけですから、契約関係が明確になりますね。
小売販売の立ち上げにあたって、約款を作ろうと考えていたから、タイムリーな話だったよ。書類を整えて相談に行くから、準備を手伝ってもらえるかい。
もちろんです。

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