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消費税の転嫁は許されません

中部経済新聞2019年11月掲載
消費税の転嫁は許されません

消費税が10月1日から10%になったね。
そうですね。事業に影響は出ていますか?
今のところは大丈夫だけど、知り合いの社長は、納品している取引先から増税分を値下げするように強要されないかと心配しているみたいなんだよ。
そうならないように、令和3年3月31日までの間は、消費税転嫁対策特別措置法という法律により保護されています。
その法律は、どんなことを定めているのかな。
大規模小売事業者等の特定事業者が、取引先の納入業者である特定供給事業者に対し、消費税増税分の減額を求めることなどを禁止しています。
【特定事業者】
特定事業者として規制されるのは、大規模のスーパーやドラッグストアなどの大規模小売事業者に限られるのかな?
①大規模小売事業者の他に、②特定供給事業者から継続して商品又は役務の供給を受ける法人事業者も規制の対象となります。強い立場を利用して、取引業者に負担を強いることがないようにするためです。
なるほどね。継続的な取引相手から要求されたら、むげには断れないからだね。
では、特定供給事業者とはどういう事業者なのかな。
【特定供給事業者】
まず、大規模小売事業者に継続して商品又は役務を供給する事業者は、資本金などに関係なく特定供給事業者として保護の対象となります。
また、法人事業者に対し、継続して商品又は役務を供給する事業者の場合は、資本金等の額が3億円以下である事業者か、個人事業者、人格のない社団等である事業者であれば、特定供給事業者となります。
なるほど。ある会社が毎月清掃業務を委託していたというような場合には、資本金3億円以下の清掃会社や個人事業者であれば、特定供給事業者になるというわけだね。
そうです。その場合には、委託した会社は特定事業者として、消費税転嫁対策特別措置法の規制を受けることになります。
【特定事業者の遵守事項】
では、減額の他には、どのような行為が禁止されているのかな。
①「増税分を値引きしてくれ」という減額、買いたたきのほかには、
②消費税の転嫁を認める代わりにこれを購入してくれ」とか「自社のサービスを利用してくれ」いうような購入強制、役務の利用強制、不当な利益提供強制、
③本体価格(税抜き価格)での交渉拒否、
④「公正取引委員会に通報したから契約を打ち切ります」というような報復行為が禁止されています。
どれも立場の強い取引業者からされると困ってしまうね。
そうですね。納入業者などからすると大切なお得意様から要求されるとなかなか断れないですからね。
【違反した場合の措置】
それでは、違反した場合にはどうなるのかな。
違反行為があると認められた場合には、公正取引委員会などから、指導・助言や、勧告・公表といった措置がなされることになります。ただ、罰則規定はありません。
それでは、効果がないんじゃないかな。
企業にとっては、勧告がなされると、企業イメージを損なうことになるため、勧告に従うことが期待されます。また、勧告に従わなかった場合には、独占禁止法に基づく排除措置命令や課徴金納付命令が下されることもあります。
なるほど。確かに、公表されるとなると企業にとってはプレッシャーになるね。では、被害に遭った場合には具体的にはどうしたらいいのかな。
仮に、消費税転嫁対策特別措置法に違反する行為がなされた場合には、公正取引委員会の消費税転嫁対策調査室が、違反行為についての相談や違反情報の受付を行っているので、事情を説明して相談するとよいと思います。
相談窓口もあるんだね。
過去には、建設業者が、警備業者との間で取り決めていた委託代金を支払う際に、消費税率の引き上げ分の一部を差し引いて支払っていた事例において勧告がなされています。
また、製造業者が、部品メーカーに対し、消費税率の引き上げ後も、消費税率の引き上げ前の納入価格(税込み)と同額に据え置いて支払っていた事例でも勧告がなされています。
税込み価格の場合、消費税率の引き上げ後も同額に据え置いていたら、実質的には、消費税の転嫁を拒否していることになるということだね。
そうですね。消費税転嫁対策特別措置法からすると、継続的な取引において税込み価格で取り決めをしている場合には、10月1日以降の価格については、消費税率の引き上げ分を考慮した見直しをする必要があると思われます。
なるほど。消費税転嫁対策特別措置法について、知り合いの社長にも伝えておくよ。

 

特定事業者(転嫁拒否等をする側) (買手)

特定供給事業者(転嫁拒否等をされる側) (売手)

   

大規模小売事業者

大規模小売事業者に継続して商品又は役務を供給する事業者

   

右欄の特定供給事業者から継続して商品又は役務の供給を受ける法人事業者

○資本金等の額が3億円以下の事業者

○個人事業者

○人格のない社団等である事業者














大規模小売事業者・・・一般消費者により日常使用される商品の小売業を行う者で,次の①又は②のいずれかに該当するもの

 前事業年度における売上高が100億円以上である者

 次のいずれかの店舗を有する者

 ・ 東京都特別区及び政令指定都市において,店舗面積が3,000㎡以上

 ・ その他の市町村において,店舗面積が1,500㎡以上


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