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児童福祉法の改正 ~学童保育の安全に『地域差』の懸念~

中部経済新聞2019年9月掲載
児童福祉法の改正 ~学童保育の安全に『地域差』の懸念~

先生のお子さん、確か学童保育に通ってたよね。うちの孫も来年から小学生で、学童保育に入れるのか、娘が不安がっていて...。
学童保育のニーズが急増していますからね。2018年には、登録児童数約123万人、クラブ数約2万5千といずれも過去最高を記録していますが、待機児童数(約一万七千人)もやはり過去最高で、昨年より微増しています。
クラブ数が過去最高で、受け皿は増やしているのに、待機児童は増えてるのか...
1997年に共働き世帯数が専業主婦世帯数を上回って以来、共働き率は上昇の一途ですからね。2017年には共働き世帯1188万に対し、専業主婦世帯は641万と、共働き世帯数が専業主婦世帯数の倍近くにまで伸びています。
そんなにかい。我々が子育てしていた昭和の終わりとは時代が違うな...。そこまで急増すると、学童保育で働く職員も足りないんじゃないか。保育士も人手不足と聞くし。
そうなんです。その人手不足を理由に、来年度の2020年4月1日から放課後児童支援員の資格及び配置基準に関する、現行の「従うべき基準」を「参酌すべき基準」に改正した児童福祉法が施行されることになってしまいました。
その、放課後児童支援員とはどんな資格なんだい。
放課後児童クラブ、学童保育クラブ等の放課後児童健全育成事業所で働く職員の資格です。2015年度から施行された、放課後児童健全育成事業の設備及び運営に関する基準(以下、「設備運営基準」といいます。)という厚生労働省令で定められています。
なお「学童保育」は通称で、法令上は、放課後児童健全育成事業が正式名称ですが、ここでは、学童保育としてお話しします。
2015年度って言ったら、つい、最近じゃないか。
はい、つい最近まで学童保育で働く職員やその配置基準等については、ガイドラインが存在するのみで、法律上の資格要件も配置基準もありませんでした。全く無資格の職員が、一人で子どもを見ることも、違法ではなかったのです。それが、2015年度から、設備運営基準が定める「放課後児童支援員」の資格及びその配置基準については、全国一律の「従うべき基準」として児童福祉法で定められたのです。
従うべき基準、とは、必ず守らないといけない基準、かな?
そうです。
従うべき基準の具体的な内容は、どんなものなの?
まず、放課後児童支援員の資格は、保育士、幼稚園教諭、教員免許状を取得している者、社会福祉士等の、保育・教育・福祉分野の有資格者や、学童保育で一定年数以上従事した者が、都道府県の実施する、放課後児童支援員認定資格研修という研修を受講することで取得できる資格です。
研修ではどんなことを学ぶんだい。
放課後児童健全育成事業や子どもの発達について学ぶ科目の他、障害のある子どもの育成支援、児童虐待への対応、関係機関の連携等についても学びます。
学童保育の職員が虐待を発見したり、発達障害等の障害を抱えた子どもの対応が問題になることもあるだろうし、研修を受けた職員の配置は必要だね。では、放課後児童支援員の、現行の配置基準はどんなものなんだい。
おおむね 40人以下の児童で構成される「支援の単位」ごとに2人以上の放課後児童支援員を配置する(ただし、一人は放課後児童支援員の資格のない補助員でも可)、というものです。
事故時、子ども達や職員の急病時、災害時等の対応を考えたら、最低2人の職員配置は、まさに最低限の基準だね。
おっしゃるとおりです。そして、設備運営基準が定める学童保育の様々な基準のうち、放課後児童支援員の資格と配置基準だけが「従うべき基準」なのです。
「従うべき基準」が「参酌すべき基準」になるとどうなるの?
「参酌すべき基準」の場合、市町村が十分参酌した結果であれば、地域の実情に応じて、条例で異なる内容を定めることも許容されます
自治体によっては、資格のない職員が、一人で子ども達をみることもありうることになるってことか。
確かに保育士も人手不足と聞くし、放課後児童支援員はなおさらか...でもやはり、孫の安全を思うと、資格のある職員がいなかったり、大勢の子どもをたった一人の職員でみるようでは不安だよ。学童保育に入所できても子どもの安全が確保できなければ意味はない。これは国が十分なお金をかけて解決すべきものじゃないか。
はい。子どもの安全に関わる問題ですから、人材不足の対策を安易に「従うべき基準」の参酌化に求めるべきではありません。放課後児童支援員の処遇改善も含め、様々な対応を幅広く検討すべきです。保育や教育等の子どもの健全な育成の保障に関する分野における規制緩和は、子どもの最善の利益の観点からの慎重な検討が求められます。
その通りだね。さっきの話だと、各市町村が条例を変えなければ、その市町村では、資格のない職員がたった一人で子ども達をみることにはならない、ってことだよね。
そうです。今後は、各市町村が制定する条例の内容への注視が重要です。
まずは、知り合いの市議会議員に、この問題について聞いてみるよ。
子ども達の安全安心な環境は、大人が守らないといけないものね。
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