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言わせてちょ ~今更言われても・・・ 懸念される消費者被害~

中部経済新聞 2019 年8月掲載
言わせてちょ ~今更言われても・・・ 懸念される消費者被害~

 何十年も弁護士をしてきたせいか、最近高齢の依頼者からの相談が増えている。会社の元経営者などは結構預金を持っているが、異口同音に口にするのは将来に対する不安である。今のご時世では子供らに世話になることは期待できないし、医療も発達し何時お迎えがくるのかも分からない。この預金だけで老後は大丈夫だろうか、というのである。通帳に一億近い残高のある依頼者ですらこうなのだから、そんなに預金のない高齢者の不安は言うまでもない。

 そんな最中に、年金だけでは老後資金が2000万円不足するとの報告書が出されたと報じられた。参議院選挙の直前だったせいか、政府はこの報告書の受け取りを拒否したそうである。推察するに、一般庶民に投資を促す目的で報告書を作ったが、想定外の所に飛び火したというのが実情であろう。

 少子高齢化が進んでおり、今の年金制度が将来維持出来ないことは以前から薄々感じていたところではある。しかし、年金が不足すると今更指摘されても、庶民はどうしようもない。私も弁護士年金基金に加入しているが、毎年届く報告書を見ると、年金資金の運用には苦戦しているようである。プロ中のプロである著名な信託銀行などに運用を任せているのに、である。プロが運用に苦戦しているのに、我々が個人で資産を増やすことなど容易なことではあるまい。

 気になるのは、今回の報告書により不安を抱く市民に対する、投資を名目とした消費者被害事件が増えるのではないかという点である。これまでにも、あまたの消費者被害事件が起きていた。インフレで貨幣価値の下落が言われた頃には豊田商事事件が起きた。土地価格が高騰の一途をたどっていた頃には、いわゆる原野商法事件が多発し、固定資産評価額一坪1円の土地を坪3万円で買わされた人もいた。比較的最近でも、不動産投資ということでアパートを建て、一棟借りだからということで安心していたら、数年後に家賃の減額を通告されたり運営会社が破綻して借金のみ残った人もいた。投資話・儲け話にかかわる消費者被害事件は、今も減ってはいない。今回の報告書が報じられ、今後更にこうした投資話に絡んだ詐欺的商法の被害者が増えることが懸念されるのである。

 今回の報告書が何故この時期に明らかにされたのか、その理由は分からない。ただ、仮に政府が市民の危機感をあおり、株式等の投資を勧めようとしたとすれば、いかがなものかと思う。政府は、市民の投資で株価が上がればよいと思っているのかもしれないが、結果的に被害に遭うのは一般市民ばかりだからである。

 ちなみに、財務大臣は自分の年金には全く関心がないとのことである。羨ましい話である。(MG)