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「遺留分」制度の変更

中部経済新聞2019年7月掲載
「遺留分」制度の変更

先生、こんにちは。父の葬儀の際は、参列してくれてありがとう。今年の1月に母が亡くなってからわずか半年で父が亡くなったから驚いたよ。
社長のお父さんは、先月まではお元気そうでしたよね。ですので、突然亡くなられたと聞いた時は、私も驚きました。お父さんが亡くなられて、いろいろと大変ではないですか。社長はお父さんと一緒に会社を経営されていましたので、事業の引き継ぎなどが特に大変ですよね。
確かに眠る時間がほとんどないほど忙しいね。でもそのおかげで父が亡くなったことをあまり考えずに済んでいるから、多少救われているかな。
そんなにお忙しいんですね。お疲れ様です。そんな状況の中で私に会いに来られるなんて、何かあったんですか。
そうなんだよ。父の書斎を整理しようと思ったら公正証書遺言が出てきてね。遺言には、父の遺産のすべてを自分に取得させると書いてあったんだよ。弟は別の仕事についているし、会社を継ぐ私が父の遺産を多くもらうことは仕方ないと考えているみたいだけど、さすがにすべての遺産を私が取得することについては納得いかないみたいでね。遺留分の主張をするって言われたんだけど、遺留分って何かな。
【遺留分とは】
遺留分とは、法定相続人の中で兄弟姉妹を除く相続人に認められている最低限の遺産の取り分のことです。この制度は、遺産によって残された家族の生活保障をすることや、遺産を公平に分配することなどを理由に認められています。具体的な取り分の割合は、別表の通りになります。弟さんの場合、お父さんの相続人は社長と弟さんだけですので、別表の「子のみ」に該当し、お父さんの遺産の4分の1が弟さんの遺留分となります。
そんな制度があるとは知らなかったよ。その制度を利用するとどうなるのかな。
【遺留分に関する法改正】
はい。まさにタイムリーな話になりますが、民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律が平成30年7月6日に成立し、遺留分に関する改正部分は、令和元年7月1日から施行されました。改正前は、遺留分減殺請求権を行使することで、原則として遺産が共有状態になり、例外的に価格弁償が認められていました。
しかし、例えば不動産が共有状態になると、不動産を売却する際に足並みがそろわず円滑に売却できない、被相続人が会社の土地建物を所有している場合などに事業承継の支障となるなどの指摘もありました。そこで法改正により、遺留分に関する権利の行使によって「遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる」ものとされました。そのため、弟さんの遺留分侵害額に相当する金銭を社長が弟さんに渡せば問題は解決することになります。
今月施行されたなんて本当にタイムリーな話だね。会社の本社ビルの敷地は父の所有になっているから、その敷地が共有状態になっていたら不動産の評価や買取りの話で少し面倒な話になっていたかもしれないね。
それ以外にもお父さんは自社株をお持ちでしたよね。改正前の遺留分減殺請求だと、弟さんがお父さんの所有していた自社株の4分の1を取得する結果になっていましたが、それも法改正により回避できるようになりました。
なるほど、法改正によりいろいろな面で事業承継がしやすくなったんだね。
ところで、弟の遺留分が4分の1だとすると、父の遺産はざっと3億円はあるから、私は弟に7500万円以上渡さないといけないってことだよね。父の遺産を確認したけど、そんなに多額の預貯金や現金はないから、さすがに一括で7500万円以上渡すのは難しいんだけど何とかならないのかな。
同じく法改正により、遺贈や贈与を受けた者が金銭を直ちに準備することができない場合には、裁判所に対し、一部または全部の支払期限の猶予を求めることができるようになりましたので、その制度を利用されるといいかと思います。
そんな制度もできたんだね。それはありがたいね。遺産に不動産が多い場合には有益な制度だね。
そういえば、父の生前に、私の自宅建築のために父から3000万円の贈与を受けたんだけど、弟はその贈与も遺留分に関係してくるって主張しているんだけど本当かな。
社長が自宅を建築されたのはいつでしたか。
15年くらい前だったかな。
では、その贈与は遺留分に関係しませんね。改正前は受贈者が相続人であり、当該贈与が特別受益にあたる場合には、贈与の時期に関係なく贈与された財産は原則として遺留分減殺請求の対象となっていました。
しかし同じく法改正により、相続人に対する贈与は、相続開始前の10年間にされたもので、かつ、婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与に限り遺留分の基礎財産に含まれることになりました。社長が受けた生前贈与は、相続開始前の10年間にされたものではありませんので除外されます。
そうなんだ。それじゃあ、20年前に父から贈与を受けた自社株も同じ扱いってことかな。
もちろんです。その点も事業承継には有益な内容となっています。
今回の法改正でいろいろと変わったんだね。
はい。遺留分以外にも、以前お伝えした預貯金債権の仮払い制度や配偶者居住権、自筆証書遺言の方式の緩和など、相続に関して様々な法改正がありましたので、再度確認をされるといいかと思います。
ありがとう。それから弟は、遺留分の主張について弁護士に依頼するって言っていたから、私も先生にお願いしようかな。
分かりました。相続の話し合いは、他にも争点が出てくる可能性もありますので、しっかりと対応させていただきます。
よろしくお願いします。
【別表】
相続人遺留分の割合
配偶者、子配偶者1/4、子1/4
配偶者、直系尊属配偶者1/3、直系尊属1/6
配偶者、兄弟姉妹配偶者1/2、兄弟姉妹は無し
配偶者のみ配偶者1/2
子のみ子1/2
直系尊属のみ直系尊属1/3
兄弟姉妹のみ兄弟姉妹は無し
※直系尊属とは父母、祖父母などを指す。
※子、直系尊属が複数人いる場合には遺留分の割合を人数で均等割りする。

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