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元号と商標・商号

中部経済新聞2019年6月掲載
元号と商標・商号

【令和まんじゅう・平成まんじゅう】

今日は我が社の新商品の試作品を持ってきました。ぜひ召し上がってみてください。
いつも手土産をいただいて恐縮です。和菓子の会社だからといって気を遣っていただかなくても大丈夫ですよ。でも、御社のお菓子、どれもおいしいですよね。これも早速いただいてみます...おいしいですね!
それはよかった。実はこれ、「令和まんじゅう」という名前で売り出そうと開発したんです。少し出遅れた感はありますが、我が社も改元ブームにあやかろうと思いまして。
へえ、そうだったんですね。
それで、同じようなことを考えている業者も多いでしょうから、「令和まんじゅう」を我が社の商標として登録したくて。今日はそのご相談にきました。
商標登録ですか...。
できますよね?
...社長、残念ですがそれはできないんですよ。

【商標の識別力】

できないんですか?どうして?
まず商標の基本からご説明しますね。商標法では、商標は自分の商品やサービスと、他人の商品・サービスを区別するものとされています。これを商標の「識別力」といいます。
はじめて聞きました。
識別力がない商標は商標登録はできません。そして、商標を審査する際の基準では、現元号を表示する商標が現元号として認識される場合は、識別力が無いので商標登録できないとされているんですよ。
元号そのものではなくて「まんじゅう」をつけてもだめなんですか?
識別力のない商標に他の識別力のない文字を組み合わせても、識別力がないので登録できないんですよ。
ちなみに前の時代を懐かしむ「平成まんじゅう」もセットで開発中なんですが、前の元号なら大丈夫ですか?
特許庁が旧元号についても現元号と同じ扱いをするという見解を出していますので、だめですね。
そうなんですか...。がっかりです。
ただ元号をつけるだけの商標がだめだというのはわかったんですが...。商標として登録できるものと、登録できないものの違いがいまいち分かりません。例えばうちの主力商品「愛弁煎餅(せんべい)」は商標登録しています。これはどうして登録できたんですか。
「愛弁」というのは御社の愛弁本舗という名称からとったもので、御社の商品と他社の商品を区別する識別力を有しているといえますね。そこに普通名称としての「煎餅」を組み合わせて、愛弁本舗という老舗の和菓子屋さんが出しているお煎餅として認識される識別力を有しているので、商標登録できるということです。
そうか。それなら、例えば「愛弁令和まんじゅう」ならどうですか?
さきほど説明したように、「愛弁」には識別力があると考えられますので、それならば商標登録できる可能性が高いですね。
なるほど。それでもいいですね。

【標準文字の場合】

ただ、いままでの話は「標準文字」といって、どんな字体で書かれたものにも権利が及ぶ商標の場合です。識別力のないもの同士を組み合わせた言葉でも、デザイン性の高い文字や図形を組み合わせてロゴマークを作って、それを商標として出願すれば登録できることがあります。
でもそれって、違う字体やデザインで類似商品を出されたら文句が言えないってことですよね。
そのとおりです。ただ、その場合は商標そのものではなくそういった行為が不正競争防止法違反になるという主張はできることがありますね。もっとも、新元号にあやかった商品を出そうという業者は多いでしょうから、ただちにまねをされたというのは難しいかもしれませんね。

【ロゴマークで登録】

でも先生、社名に元号が入っている会社名は有名なものでもたくさんありますよね?
会社の名前は「商号」の話ですね。商号は、会社であれば株式会社などの会社の種類を前後に必ずつけなければいけないとか、いろいろな制限があります。名称そのものに関しては、商業登記法で同じ本店所在地に同じ商号の会社がある場合は登記ができないというルールがありますが、商標法のように、元号を商号として登記できないという決まりはないんです。
でもさっきの商標の話だと、元号が入った会社名をそのまま商標登録しようとしたらできないこともあるってことですよね。
そのとおりです。ですから、この場合は会社名をロゴマークにして商標登録することが考えられますね。

【ヒット確実?】

いや勉強になりました。早めにご相談してよかったですよ。商品名は社内で再度検討してみます。やはり、商品名は商標として守りたいですからね。早く発売しようと、パッケージデザインもはじめているところだったんです。生産や販売を開始してから変更するとなれば大きな損失が出るところでしたよ。
そうでしたか。それはよかった。これからも何事も早めに相談してくださいね。このおまんじゅう、きっと売れますよ。
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