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地番のない土地は誰のもの?

中部経済新聞2019年3月掲載
地番のない土地は誰のもの?

所有者が分からない土地が相当あるらしいね。
民間有識者で構成される「所有者不明土地問題研究会」は、現在持ち主がすぐに特定できない土地が、平成28年で九州の面積を超える約410万ヘクタール、このまま対策を講じなければ、31年後には約720万ヘクタールに達するとの推定を行っていますね。国の問題意識も高く、平成30年6月、「所有者不明土地に利用権を設定する制度等を定めた所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」が成立しましたが、財産権は憲法が保障する権利であり、所有権を一方的に奪うこともできないことから、抜本的な解決はなかなか難しそうです。
実は、先日実家の土地を測量したのだけれど、土地の真ん中に、細長い部分があって、地番がないことが分かったんだ。これも所有者不明の土地なのかい。
この特別措置法では、「所有者不明土地」を、登記簿や住民基本台帳等で相当な努力を払って探索を行ってもその所有者の全部又は一部を確知することができない土地と定義しており、地番があり登記簿がありながら、相続登記等が行われない結果、所有者にたどりつけない土地を念頭に置いています。
 他方で、地番がなく登記簿が見当たらないからといって、所有者が分からないとは限りません。公図作成の過程で地番が消えてしまったり、飛び地であって、他の公図に該当の土地が記載されていることもあります。また、調査をしたうえで、一度も地番がついた形跡がない土地であれば、地租改正の時に国有地であると確定した土地だと考えられます。
地租改正かい?話が急に明治時代に遡ったね。
地租改正の過程で、明治政府は、土地の私的所有を認めて土地に地番をつけたのですが、道路や水路等は私有地として扱わず、地番をつけませんでした。その後、使われなくなり払下げ等で私有地となっていれば、その時点で登記簿が作成され地番が付されているはずですが、今も地番がないということだと、一度も私有地になっていないと思われます。このような道路や水路等で、道路法や河川法の適用を受けていない土地は、当時の図面に、道路は赤、水路は青等で着色されたことに由来し、赤道(あかみち)や青道(あおみち)等と言われています。このような土地が、全国にどの程度あるのかはっきりしませんが、旧建設省が行った平成3~4年度サンプル調査では、全国で1、745平方キロメートルあると推定されています。
すごくたくさんあるんだなあ。そんな土地があるとは知らずに自分の土地と思って使っている人もいるだろうね。
そうですね。国土調査法に基づく地籍調査は平成29年末で国土の半分程度しか終了しておらず、特に山間部や都市部ではなかなか進んでいません。地籍調査が行われていない地域の多くでは、明治時代に作成された不正確な図面が公図として使われていますから、自分の土地の状況が正確に分からない人も多いでしょうね。
なるほど。土地の利用方法は様変わりしているのに、明治時代の図面を使っていたり、昔の赤道が公図上残っていたりするとは知らなかった。平成も終わるというのに、土地の所有や現況をはっきりさせるのは難しいんだな。
それで、これを、自分の土地にするにはどうしたらいいんだい。
赤道や青道等は、いわゆる「地方分権一括法」の施行を契機に、道路や水路としての機能があるものは、国から市町村に所有権を移転し、機能がないものは、平成17年3月31日をもって、道路や水路としての用途を正式に廃止したうえ、各地の財務局に引き継がれています。ですから、もしこの土地を買いたいのでしたら、市町村か財務局に問い合わせることになります。
この土地は、長い間うちが自分の土地と思い込んで使っていたんだけど、自分のものにはならないのかい。
所有の意思をもって、平穏・公然と、その土地を占有していれば、原則は20年間、占有開始時に善意無過失なら10年間で取得時効が成立する可能性があります。ただし、赤道や青道はもともと道路や水路として使用されていた行政財産で、公共目的に使われているうちに時効取得されては困りますので、この用途が廃止されてから占有しなければ、時効取得できません。用途廃止は、明示でなくてもよいとされ、最高裁判所の判例によれば、「公共用財産が、長年の間事実上公の目的に供されることなく放置され、公共用財産としての形態、機能を全く喪失し、その物のうえに他人の平穏かつ公然の占有が継続したが、そのため実際上公の目的が害されるようなこともなく、もはやその物を公共用財産として維持すべき理由がなくなった場合」には、黙示的に公用が廃止されたものとして、取得時効の成立が可能であるとされています。
難しいね。
もっとも、地番がない国有地といっても、赤道や青道だけではなく、地租改正において調査の対象から漏れた土地や、本来は私有地とすべきでありながら国有地となってしまった田畑間の畔(あぜ)等もあります。このような土地は、一度も公共目的に使用されていない財産ですので、私有地と同じ要件で時効取得ができます。
なるほど。この土地に本当に地番がついていないのか、過去どういう使われ方をして来たのかをもっと調べてみるよ。また相談に乗ってもらえるかい。
もちろんです。
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