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昭和55年以来の相続法改正

中部経済新聞2018年11月掲載
昭和55年以来の相続法改正

先日、父が突然、自分の葬儀代はこの預金を使って盛大にやってくれって言い出したんだけど、以前、亡くなった人の口座は凍結されて引き出すのは簡単ではないって言っていたよね。
そうですね。平成28年12月19日の最高裁決定で、相続された預貯金債権は遺産分割の対象財産に含まれることになったので、相続人による単独での払戻しができなくなりました。
そうか、弟とは疎遠だから、ちょっと面倒だな。
【預貯金債権の仮払い制度】
ただ、亡くなって直ぐに葬儀費用や相続人の生活費等が必要になることもたしかですから、つい最近、相続に関する法律が色々と改正されたので、今後は、預貯金の仮払いを受けることができるようになりますよ。
えっそれは知らなかったな。
相続に関する民法等の規定(いわゆる相続法)が約40年ぶりに改正されたんです。平成30年7月6日、民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72号)として成立し、同年7月13日に公布されました。この法律の施行期日は、原則として、公布の日から1年以内(別途政令で指定)とされていますから、今まさに動き出す直前です。
じゃあ、父の葬儀の頃は、仮払いを使えば問題ないね。
ただ勿論、制限はあります。方法は2つあり、家庭裁判所の保全処分手続を利用する方法と、相続人単独で金融機関の窓口等で一定割合の仮払いを受ける方法があります。前者は裁判所が必要性を認めてくれれば金額の制限はありませんが、やはり時間がかかるのがデメリットですね。これに対して、後者は金融機関等において単独で手続きできるので簡便ですが、仮払いを受けられる金額に上限があります。具体的には、「相続開始時の預貯金債権の額(口座基準)×3分の1×仮払いを求める相続人の法定相続分」かつ「金融機関ごと(複数の口座がある場合は合算)に法務省令で定める額」とされています。
じゃあ葬儀代の問題は何とかなりそうだな。ところで、さっき色々改正って言っていたけど、実は、母と弟の仲が悪くて、父の相続の時には揉めそうなんだよね。私としては出来るだけ母の生活を守ってあげたいんだけど、その点に関しては何かないかな。
【配偶者の居住権保護のための方策】
ありますよ。今回の改正は、まさに高齢化社会に対応することも主眼にあり、相続開始時の配偶者の年齢の高齢化に配慮し、その保護を図る方策を創設しました。ところで、現在、ご両親は一緒にお住まいですよね。
そうだよ。父が建てた立派な自宅で生活しているんだけど、現在でも不動産価値は高いと思うな。だからこそ、弟が自宅は売却してお金が欲しいと言い出さないか心配なんだよ。
そうですか。改正法では、配偶者を保護するため、配偶者短期居住権と配偶者居住権という権利を創設しました。前者は、相続開始時に、被相続人名義の建物(居住建物)に無償で住んでいた配偶者は、その使用部分に限って、一定期間(遺産分割により建物の帰属が確定した日または相続開始時から6か月経過日のいずれか遅い日までの間)、引き続き無償で居住建物を使用できる権利です。これは、仮に被相続人が反対の意思を表示していた場合であっても配偶者に認められる権利で、短期のため、遺産分割時の計算上も考慮されません。これに対して、後者は、配偶者が相続開始時に居住していた被相続人所有の建物全体を対象として、終身または一定期間、配偶者に建物の使用を認めることを内容とする権利です。前者と異なり、遺産分割時の計算上、考慮されますが、配偶者居住権は不動産そのものの価値より低額となりますので、現行よりは生活費にあてうる預貯金等をより多く取得できる可能性が増え、高齢な配偶者の保護に資すると考えられています(図解参照)。
【長期間婚姻の夫婦間での居住用不動産の贈与等の保護】
ところで、ご両親は婚姻期間20年以上になりますよね。そうであれば、今のうちに居住用不動産を贈与しておくことも検討されるといいと思いますよ。
でもそれって、結局、遺産の先渡しとかで遺産分割の時、考慮するんだよね。
いえ、現行ではそうですが、それは生前に贈与をした被相続人の意思に反するのではないかということで、改正法により、原則として、この場合の受贈者は遺産の先渡し(特別受益)を受けたと取り扱わないことになりました。そのため、結果として、受贈者は、贈与がなかった場合の遺産分割に比べて、より多くの財産を取得できることになります。
それはいいね。居住権よりわかりやすいしね。
【自筆証書遺言の方式緩和】
ところで、ひょっとして社長も弟さんとはうまくいっていないのですか。
あっ、ばれましたか。うちは子どもがいないから、私の遺言書が無いと、両親が亡くなった後に私が死んだら妻と弟が相続人になるんだったよね。早く遺言書作らないとな。
遺言書についても、自筆証書遺言の方式が緩和され、法務局で保管してもらえる制度の新設などがありましたよ。
簡単になったのかな。詳しく教えてよ。
自筆証書遺言は、現行では、不動産や預貯金等の財産の特定(財産目録)を含めて全文を自書しなければならず、特に高齢者にとっては負担が大きいと言われていました。そこで、改正法では、別紙として添付する財産目録に限り、自書が不要になりました。具体的には、パソコンで作成した財産目録や通帳のコピーなどを添付することができるようになります。なお、この方式緩和については、平成31年1月13日から施行されることが決まっています。
へえ、それは楽だね。それに、公正証書遺言でもないのに、わざわざ法務局で保管してくれるんだ。
【法務局での保管制度の創設】
そうなんです。これは、現行では、自筆証書遺言についての公的保管制度がないため、紛失や偽造のおそれ、あるいはその存在や有効性をめぐって紛争が生じやすかったからなんです。この制度については、先ほどの法律改正と同じ日に、法務局における遺言書の保管等に関する法律(平成30年法律第73号)が成立し、同じく7月13日に公布されました。ただ、この遺言書保管法の施行期日は、原則として、公布の日から2年以内(別途政令で指定)とされており、施行前には、法務局に対して遺言書の保管を申請することはできませんので、まだ少し先のことですね。なお、法務局に遺言書の保管を申請することができるのは、遺言者本人のみで代理申請はできませんし、遺言書は法務省令で定める様式に従って作成したものにつき、封をせずに出す必要があります。
えっ無封なの?ちょっと嫌だな。
でもこれは大切なことなんですよ。先ほど言ったように、後日の紛争防止という点から遺言書の有効性につき形式審査(日付の誤り、署名・押印漏れなど)をし、遺言書の画像情報を保存するためなんです。また、無封といっても、遺言者以外の人は、相続人でも閲覧等することはできませんので、その点は安心ですよ。更に、この保管制度を利用した場合は、現行上は遺産分割前に必要である家庭裁判所での検認手続が不要となりますので、相続人にとっても遺言書に基づいて速やかに遺産分割手続に入ることができるという利点もあります。
そうか。せっかく遺言を書いておいたのに、争われるのは本意じゃないからね。
【相続人以外の者の貢献(特別寄与制度)】
そうですね。今回の改正では、他にも、今までは認められていなかった相続人以外の親族が、被相続人の療養看護等を行った場合に、一定の要件のもと、相続人に対して金銭請求をできる制度も創設されました。
さすが40年ぶりの改正だね。
はい。相続法の改正について詳しくは、法務省のホームページも参考にしてみてください。
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00222.html
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