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ネット上での誹謗中傷 安易な書き込みに注意を

中部経済新聞2018年7月掲載
ネット上での誹謗中傷 安易な書き込みに注意を

【安易な書き込みにご注意を】
最近、インターネット掲示板に、当社の商品のことをすぐに壊れる粗悪品だっていう嘘の投稿をされて困っているんだけど。
インターネット掲示板が普及して、自分の主張などを表現しやすくなった反面、不特定多数の人が匿名で自由に書き込みできるため、根拠のない表現も増えて問題にもなっていますね。
そうなんだよね。当社の商品も完璧ではないけど、仕事に対しては誠実に対応するように従業員にも指導しているし、当社の商品が粗悪品なんてことは決してないはずだから非常に心外だよ。投稿者は何にも責任は負わないのかな?
【名誉棄損と損害賠償責任】
御社の商品のことをすぐに壊れる粗悪品だという事実を公然と適示して、御社の社会的評価を低下させるおそれのある行為をしていますので、名誉毀損に該当する可能性があります。そのため、刑事上の責任として名誉毀損罪が成立する可能性がありますし、民事上の責任として不法行為に基づく損害賠償義務を負う可能性があります。
そうなんだ。やっぱり責任を負う可能性があるってことだね。ところで、投稿内容が本当のことだった場合には責任を負うのかな?最近、当社に転職してきた従業員が、前に在籍していた会社のことを、インターネット掲示板に、ブラック企業だって投稿したらしいんだよね。その従業員は、勤務条件などが非常に悪かったから、本当のことを書いただけって言っているんだけど。本当のことを書いてるなら責任を負わされることはないよね?
【名誉毀損の要件など】
投稿内容が本当だったとしてもそれだけで責任を逃れることはできません。
えっ、そうなの?
はい。投稿行為が名誉毀損に該当するための要件は、事実を公然と摘示して、人の社会的評価を低下させるおそれのある行為をしたことで足ります。そのため、事実が虚偽であることまでは要求されず、仮に事実が本当のこと、つまり真実であったとしても、名誉毀損に該当することになります。
本当のことを書いているのに責任を負うなら、何も投稿できなくなるんじゃない。昔、先生から、人には表現の自由があるって聞いたことがあるけど?
はい。確かに人には表現の自由があります。しかし、表現の自由と名誉権は共に重要な権利ですので、衝突する場合には、調整が必要です。そのため、投稿内容が、名誉毀損に該当する場合でも、投稿された事実が真実であり、公共の利害に関する事実であり、またその投稿が専ら公益を図る目的でなされた場合には、刑事上及び民事上の責任を負わないことになります。また、投稿内容が真実でなかったとしても、真実であると信じることについて相当の理由がある場合にも責任を負わないことになります。
今の話はちょっと難しいなあ。
そうですよね。今の話は個々のケースによるところもあるのですが、例えば、議員の立候補者が学歴詐称をしているという事実であれば、公共の利害に関する事実であることと公益目的の要件は満たされると思います。
真実であることについても、裁判で真実であることが立証できれば責任を負いませんが、仮に立証できなかった場合でも、真実であると信じた理由として、そう信じるだけの相当な資料があった場合には、責任を負わないということです。
【匿名の投稿者の特定について】
なるほどね。責任を負わなくなる場合があるのは分かったんだけど、今の話だと、嘘だと知りながら嘘の投稿をした場合には責任を負うってことだよね。最初に話した当社の商品に関する投稿は嘘の内容だし、投稿者も嘘だと知っていると思うから、当社としては投稿者に損害賠償請求したいと思うんだけど、投稿者が匿名で投稿している場合にはどうすればいいのかな?
発信者情報開示請求があります。
それはどういう請求なのかな?
プロバイダ責任制限法第4条に基づいて、プロバイダに対してインターネット上で他者を誹謗中傷するような表現を行った発信元の住所・氏名・登録された電話番号等の情報について、情報の開示を求める制度です。
そんな制度があるんだね。それなら当社も泣き寝入りをしなければならないってことはなさそうだね。
【投稿の削除について】 
ちなみに、投稿を削除させることもできるのかな?当社の損害賠償請求が認められても、その投稿が残ったままだと当社の信用がどんどん悪くなっていくからね。できるだけ早く投稿を削除させたいと考えているんだけど。
確かに投稿を削除しなければ、根本的な解決にはなりませんね。
投稿を削除させるための手段としては、掲示板の運営者に対して直接メールなどで削除請求する手段や裁判上の手続きを利用して削除請求する手段などがあります。ただ、掲示板の運営者の対応は掲示板によって異なっています。
そうなんだね。対応方法が違うと、請求する側も迷っちゃうね。
インターネット掲示板が普及して便利な世の中になったけど、使い方には気をつけ ないといけないね。嘘の投稿をするのはもちろん駄目だけど、本当のことだからといって安易に投稿をすることはやめた方がいいってことだね。
そうですね。実際に、インターネット掲示板への投稿が名誉毀損に該当するとして刑事責任や損害賠償責任を負ったケースもあります。また、名誉毀損以外にも、投稿行為が、業務妨害、プライバシー権の侵害、脅迫などに該当することもありますので、投稿する際は、慎重に行うことが必要ですね。
名誉毀損以外にも問題になることがあるんだね。そんなに複雑だと、投稿する方もされた方も、法律的な判断やその対応方法が分からなくなるね。
そうですね。先ほどお伝えしたように掲示板の運営者の対応が掲示板によって異なっているだけでなく、投稿された側の対応に時間がかかった結果、すでに投稿が削除されて証拠を残せなくなったり、投稿による損害が広がりすぎたりすることもあります。インターネット掲示板は複雑で、専門家でも完全な対応は容易ではありませんので、一般の方が対応することはより難しくなります。投稿されたことを知った際には、早めに専門家に相談されるといいかと思います。ただし、最近、インターネット上で「削除依頼承ります」などの文言で、事件をうけている業者が多数存在しています。これらの業者の中には、弁護士資格を持っていない業者も多く、「非弁行為」に該当し、弁護士法に違反する場合もあります。依頼する際は、必ず弁護士に依頼するようにしてください。
分かったよ。色々と教えてくれてありがとう。では早速だけど、当社の商品に関する投稿の件、お願いしようかな。
分かりました。