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中部経済新聞2018年6月掲載
「パワーハラスメント 従業員間での共通認識を」
中部経済新聞2018年6月掲載
「パワーハラスメント 従業員間での共通認識を」
上司が叱れないなんて困ったもんだ。 | |
どうかしましたか。 | |
なかなか有能な社員がいたので,この前昇進させて,部下をつけたんだよ。でも,部下を上手に指導できないって言うんだ。 | |
どうしてですか。 | |
「パワハラ」と言われるのが怖いみたいなんだよ。会社として「パワハラ」はあっちゃいけないと思うんだけど,指導できないっていうのも困るよね。 そもそも「パワハラ」ってなんだい。 | |
厚労省では,同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為と定義しています。 | |
難しいな。 | |
ポイントは二つあって①「職場内の優位性」と②「業務の適正な範囲」です。 | |
①「職場内での優位性」ってのは、上司部下の関係のことでしょう? | |
もちろん「職務上の地位」は典型ですが,それに限りません。人間関係や専門知識,経験なども「優位性」の判断に含まれるので,地位が同じ場合や部下から上司に対する場合でも「パワハラ」になることがあります。 | |
どういうこと? | |
例えば,専門知識を有する部下が,それを背景に知識のない上司を馬鹿にしたり,社長の息子が親子関係を背景に同僚に嫌がらせをしたりした場合です。 | |
なるほどね。 | |
②「業務の適正な範囲」についてですが,ハラスメントとは,基本的には他者に対する発言が「本人の意図とは関係なく」相手を不快にさせること等を言います。しかし「パワハラ」においては,仮に相手が不快に思ったとしても,業務上の必要な指示や注意・指導が,業務上の適正な範囲で行われている場合にはハラスメントには該当しません。 | |
適正な指導は問題ないということだね。 | |
そうです。ここがセクハラ等とは違うところです。会社として「パワハラ」は防止しなければなりませんが,上司の適正な指導を妨げてもいけません。 | |
会社としてはどうすればいいのかな。 | |
パワハラは行為そのものだけでなく,業種,行為と業務との関係,また,行為が行われた状況や行為の継続性などさまざまな要因から判断されるものではありますが,その中で,適正な指導とパワハラとの違いについて,従業員間で共通認識を作ることが重要です。 | |
そうだとすると,線引きが重要だね。どんな場合がパワハラに該当するのかな。 | |
厚労省は,パワハラの主な行為として①身体的な攻撃,②精神的な攻撃,③人間関係の切り離し,④過大な要求,⑤過小な要求,⑥「個」の侵害と,6つ指摘しています。もちろん,この6つに該当しなければよいというものではありませんが,参考にしてみてください。 | |
①身体的な攻撃は分かりやすいね。水の入ったコップを投げたとかいう事件も報道されていたね。 | |
そうですね。胸座を掴んだり,長時間正座をさせたりすることでも該当する可能性があります。 | |
②精神的な攻撃は暴言とかかな? | |
客の前で「バカ」などと罵倒したり、他の社員の前で「無能」「役立たず」などと何度も言ったりするのはパワハラの典型です。 | |
③人間関係の切り離しってのは,無視するといったこと? | |
そうです。無視のほかにも,報告を受けても反応しない,他の社員に関わらないように言い仲間はずれにする,別の部屋に隔離する,社員旅行や忘年会などに参加しようとしても拒絶する,といったことが含まれます。 | |
④過大な要求は,一人では到底やり切れない仕事や無理難題を強制することかい? | |
はい。ほかにも業務として必要ではないことをさせることも含まれます。たとえば先輩社員が後輩に私用の買い物をさせる、車での送迎を無理矢理させるといったケースですね。 | |
⑤過小な要求は,逆に仕事を与えないということかな? | |
そうですね。そのほか,その社員の能力や経験からすると明らかに程度の低い仕事をさせることも,過小な要求に含まれる行為です。たとえば,バスの運転手に対して1か月にわたって除草作業をさせたケースでは企業側に損害賠償を命じた裁判例があります。 | |
最後の⑥「個」の侵害ってのはどういうことだろう。 | |
家庭のことや信仰する宗教など業務とは無関係なこと,プライベートなことを根ほり葉ほり聞き出すといった行為は私的なことへの過度な立ち入りとみなされる可能性があります。 | |
相手が嫌がっているにも関わらず執拗に聞くのはいけないね。 | |
嫌がっているということに気付くことが大切ですね。 以上,典型例をご説明しましたが,パワハラかどうかの線引きは業務内容によっても変わります。従業員に危険な仕事をさせる部署では,当然安全確保のためには強い指導をしなければならないこともあります。 | |
事故が起きては困るからね。 | |
上司が適切に部下を指導できるよう,積極的に会社が指針を示せるとよいと思います。 | |
なるほどね。一度,指導する側を集めて,どのような指導が適切か,きちんと会社として教育する必要があるな。その時は講師頼めるかい? | |
もちろんです。 |