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NHK受信料制度と契約の自由

中部経済新聞2018年1月掲載
NHK受信料制度と契約の自由

◆ 最高裁は「合憲」判断
少し前に,NHKの受信料制度は「合憲」という報道があったね。
平成29年12月6日に言い渡された最高裁判決に関する報道でしょうか。
受信料を払え,いや払わないという話が,憲法違反かどうかという話にまでなるものなのかい。どういうことか,解説してもらえないかな。
報道があった最高裁判決は,自宅にテレビを設置して,その後にNHKから受信契約の申込書を受け取ったものの,NHKの報道内容に不満があるなどといった理由で受信契約の締結を拒んで受信料を支払わなかった人に対して,NHKが受信料の支払等を求めた事件の上告審判決です。
テレビ見てるんだから,受信料を払えで済みそうな話だけど。
ところが,受信料を支払う義務は,テレビ等の受信設備を設置することのみによって発生するものではなく,NHKと受信契約を締結することによって発生します。
それじゃあ,今回は受信契約の締結を拒んでいる人だから,受信料は払わなくていいってことになるの。
そこで問題になるのが,受信設備を設置した者は,NHKと「その放送の受信についての契約をしなければならない」と定める放送法64条1項です。
◆ 確定判決で一方的に契約成立
受信契約をしなければならないなら,受信契約の締結を拒んでいようが受信契約は成立して,受信料を払わないといけなくなるのかな。
最高裁判決は,受信契約の成立には,申込みと承諾の意思表示の合致が必要としつつ,放送法64条1項は受信設備を設置した者に対して受信契約の締結を強制する旨を定めた規定で,NHKは,受信設備を設置した者が,NHKからの受信契約の申込みに対して承諾しない場合には,その者に対して承諾の意思表示を命じる判決を求め,受信契約が成立させることができるとしました。
受信契約を拒んでも,結局,判決によって受信契約が成立するわけか。それで,憲法違反という話はどこから出てくるの。
この,NHKとの受信契約の締結を強制する放送法64条1項が,憲法上保障される契約の自由,知る権利,財産権を侵害し,憲法13条,21条,29条に違反するかどうかが争われました。特に問題になったのは,契約の自由ですね。
契約の自由って,どういうこと。
契約自由の原則とも呼ばれるもので,明文の定めはないものの,契約を締結しようとする当事者に認められる,契約を締結するかしないかの自由,契約の相手方を選択する自由,契約の内容決定の自由,契約の方式の自由のことです。
なるほど,受信契約を強制されるとなると,契約を締結するかしないかの自由が侵害されるということか。
また,受信契約の内容は,NHKが定める放送受信規約によって定まるので,契約の内容決定の自由が侵害されるという点も問題になりました。
知る権利,財産権の侵害というのは。
受信設備を設置することが必ずしもNHKの放送を受信することにはならないのに,必ず受信料を支払わなければならないとするのは不当であり,また,金銭的な負担なく受信することのできる民間放送を視聴する自由に対する制約にもなっているという主張ですね。
報道からすると,どれも「合憲」と判断されたんだよね。
放送法64条1項は,同法に定められたNHKの目的にかなう適正・公平な受信料徴収のために必要な内容の受信契約の締結を強制する旨を定めたものとして,憲法13条,21条,29条に違反するものではないとされました。
◆ 時効進行は受信契約時から
報道では,約900万世帯に上る未契約者にも影響を与えそうとあるね。
最高裁判決は,承諾の意思表示を命じる判決の確定によって受信契約が成立するとしており,未契約者について,直ちに受信契約が成立するということはありません。ただ,最高裁判決では,受信契約の締結を強制する放送法64条1項は憲法に違反するものではないという判断のほか,受信料の支払義務は受信設備の設置の月以降の分について生じ,その消滅時効については受信契約成立時から進行するという判断も示されており,これがアナウンスされることによる影響は大きいでしょう。受信料請求権は5年で時効消滅しますから,たとえば,単に10年分の受信料を滞納した場合には5年分を支払うことになる一方,受信契約を拒んで10年分の受信料を滞納した場合には10年分を支払うことになります。
みんなが納得して受信料を支払うようになるのが一番だと思うけど。
最高裁判決も,NHKが,受信契約の締結に理解が得られるように努め,これに応じて受信契約を締結する受信設備設置者に支えられて運営されていくことが望ましいと述べています。NHKには,受信料の徴収に汲々とするのではなく,民間放送には真似できない,視聴者として受信料を支払わないわけにはいかないような放送を目指してほしいものです。