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法定相続情報証明制度とは

中部経済新聞2017年10月掲載
法定相続情報証明制度とは

最近、父親が亡くなった友人が、相続を証明するのに法務局に何か申請すると言ってたけど、何のことかな?
それは、平成29年5月29日から始まった法定相続情報証明制度のことですね。
何だいそれ。戸籍じゃダメなのかい?
いや、そうではなくて、戸籍制度を前提に、戸籍謄本や除籍謄本等による相続関係を一旦法務局に申し出て、相続関係そのものを証明してもらう制度です。

◆法定相続情報証明制度創設の背景

何でわざわざ別にそんな制度を作ったのかな。
この制度をきっかけに、不動産の相続登記の促進を図ることが目的なのです。
えっ、どういうこと?
実はね、公共事業や災害復興現場などで、不動産の所有名義人が死亡後も長期間、相続登記がされていないため、誰が所有者か分からず、公共事業等が滞るといった影響が生じているからなのです。津波で大きな被害を受けた宮城県南三陸町では、山林を切り開いて役場や病院、公営住宅等を整備する高台移転事業を進める中で、買収予定地の中に、買収の同意を得る必要のある人が元の所有者のひ孫の代にまで広がった土地もあり、全員の所在を確認し、買収の交渉をし、同意を得るだけで大変な苦労と期間を要したそうですよ。そのため、昨年6月に閣議決定された「経済財政運営の改革の基本方針2016」においても相続登記の促進に取り組むことが明記されたのです。
ふ~ん、個人的問題の相続とはあんまり関係ないような気もするけど、災害復興が進まないというのはやっぱり気になるな。いつ子ども達が影響を受けるかわからないからね。それで、具体的にはどうすればいいんだい?

◆制度の概要

まずは、相続人が、法務局に、①相続関係を示す書類(被相続人が生まれてから亡くなるまでの戸籍関係の書類等)と、②この戸籍関係に基づく法定相続情報一覧図(被相続人の氏名、最後の住所、生年月日及び死亡年月日並びに相続人の氏名、住所、生年月日及び続柄の情報)を提出します。
何だかいきなり面倒くさそうだな。
そんなことはないですよ。①の書類は、さっき社長が仰った相続関係を証明する戸籍関係の書類ですし、現在でも、被相続人名義の預貯金の払戻手続をする場合、金融機関から提出を求められる書類ですよ。
じゃあ、やっぱり戸籍でいいじゃない。
まあ社長、そんなに焦らず聞いて下さい。法務局に必要書類を提出した後は、登記官が内容を確認し、問題がなければ、②の法定相続情報一覧図を、偽造防止措置を施した専用紙に写し、認証文付きの証明書として交付してくれます。しかも5年間の保存期間中、無料で何枚も交付してくれるのですよ。
えっ無料なの。それは珍しいね。でも行政の円滑化のための制度だから当然か。
いやいや、それだけが活用場面ではありません。

◆証明書の利用によるメリット

例えば、被相続人の預貯金については、金融機関が複数ある場合、戸籍謄本等で相続関係を証明する場合、各金融機関で原本の確認が必要となりますから、現状では費用をかけて各金融機関分の原本を取得するか、金融機関毎に原本の提出と返却を繰り返すかというどちらかの手続をとる必要があります。しかし、この制度に基づく証明書は何通でも無料交付を受けられますから、同時に手続を進められ、費用も手間も節約することができますよ。
そうか。それは魅力的だね。他には何かないのかい。
勿論、不動産の相続登記手続に使用できます。被相続人名義の不動産がある場合、この制度を利用する人に、法務局が直接、相続登記の申請を促すことができることが制度創設の目的ですからね。
そうだとすると、被相続人が不動産を所有していないと利用できないのかな。
そんなことはないです。制度自体は、端的に相続関係を証明する制度ですから、先ほどの手続だけではなく、相続が問題となる場面、例えば、裁判所での利用や、相続人として死亡保険金を受け取る場合等も利用できると聞いています。ただ、まだ制度として浸透していませんから、提出先毎に取扱いが異なる可能性は否めませんね。また、相続税の申告については、現時点では法改正が必要な部分があり利用できませんが、制度が浸透すれば、導入が検討されるかも知れませんね。

◆法務局の書式例等の活用を

そうか。まずは利用することからだね。それにしても、私に、②法定相続情報一覧図なんて作成できるかな。
難しく考える必要はないですよ。法定相続情報一覧図は、A4用紙に被相続人と相続人を記載の上、線で結ぶなどして、その関係性が一見して判別できればよいですし、明瞭に判読できれば手書きでも構わないとされています。また、登記官が戸籍謄本等と照らし合わせて確認をしますので、間違いがあれば訂正するよう指摘してもらえますから大丈夫ですよ。
でもよく考えたら、住所まで記載された書類が法務局で誰でも取得できるとなると、ちょっと嫌だな。
その点は安心して下さい。この制度に基づく証明書の受領は、再交付も含めて申出人しかできませので、たとえ他の相続人であっても受領したい場合は、当初から共同申出をしておくか、申出人からの委任が必要となります。なお、相続人の住所記載については、必須ではありませんが、証明書を金融機関に提出する予定があるのであれば、住所の記載がないと受け付けてくれない可能性が高いので記載しておいた方がよいかもしれませんね。その他、必要書類やその書き方、どこの法務局へ提出すればいいかなどの情報は全て法務局のホームページに詳細が掲載されていますので、参考にしてみて下さい。
最近のホームページは情報が充実しているからね。これで仮に弟と揉めても相続登記は簡単にできるね。
いやいや社長、ちょっと待って下さい。
②法定相続情報一覧図で証明されるのは、あくまでも戸籍謄本等に記載された内容に基づく相続関係の情報に限られますから、相続廃除のように戸籍謄本等に記載される事項は対象となりますが、そもそも戸籍謄本等に記載されない相続放棄や遺産分割協議に基づく具体的持分までは証明の対象となり得ません。ですから、具体的に相続登記手続をする場合は、この制度に基づく証明書の他に、別途、相続放棄があったことを証明する文書や遺産分割協議書等が必要となることは従前と同様です。また、単に法定相続分に基づく相続登記をする場合であっても、この制度によって相続関係を証明できること以外は従前と変わりませんので、共同相続人全員で登記申請をする必要があることも以前と変わりませんよ。
なんだ、そっか。さすがにそんなにうまくはいかないか。
そうですよ。そんなことができたら一度決めた遺産分割協議が気に入らないからといって勝手に遺産分割協議と異なる登記をされかねませんよ。
そりゃそうだ。せっかくの制度が不正利用されたら困るしね。
他に何か気になることがあればいつでも相談にのりますよ。この制度の利用についても弁護士は相続人の代理人になれますから、不安であればご相談下さい。
そうか。いざとなれば助けてもらえるのだね。じゃ、その時はまた宜しくね。
承知しました。