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言わせてちょ―シビリアンコントロールの危機―

中部経済新聞2017年8月掲載
言わせてちょ―シビリアンコントロールの危機―

 稲田防衛大臣が辞任した。南スーダンに派遣した現地部隊の日報隠匿問題が直接の引き金となっている。しかし、稲田大臣は辞任したものの、彼女の残した傷跡は今後大きな影響を残すのではないかと思う。

 「シビリアンコントロール」という言葉を耳にしたことがあると思う。武官ではない、文官が軍隊をコントロールするという建前である。戦前は、統帥権(軍隊を指揮命令する権利)は天皇にあるとされており、総理大臣等文官の権限外であるとされていた。そして「統帥権」の名の下で軍部が独走し、日中戦争の泥沼に日本は入り込んでいったのである。こうした経緯への反省から、軍隊については軍人は最高指揮官とならず、文官が最高司令官となり、軍人は文官の指示に従うことが義務づけられた。これがシビリアンコントロールである。今の自衛隊においても、指揮のトップは防衛大臣であり、最終的には内閣総理大臣が最高指揮権者という立て付けとなっている。

 今回の日報隠匿問題では、日報の存在を隠蔽することを稲田大臣が知っていたのではないか、との情報がマスコミに流れている。会議でどのような報告がされたのか、この点は防衛省内部の者にしか分からない。情報源は防衛省ではないかと思うのは私だけではあるまい。憶測になるが、日報隠匿問題について、大臣が現場の制服組即ち自衛隊の上級幹部に責任を転嫁しようとしたことに対する現場の自衛官の強い不満があり、それが情報のリークにつながったのではないかと思う。

 懸念するのは、今回の事態により現場の自衛官がシビリアンコントロールを担う文官に対する不信感を抱くことである。そうなれば、今後は不都合な情報については現場レベルで隠匿しようとする可能性が出てくるし、そうなればもはやシビリアンコントロールは有名無実となる。シビリアンコントロールが機能しなくなった場合にどのような事態が生じるかは、歴史が証明している。

 いかに強弁しようと、自衛隊も軍隊であることは間違い無い。イラクであれ南スーダンであれ、命がけで職務にあたる仕事である。また、我が国で唯一武力を保持する組織でもある。そうした組織だからこそ、自衛隊員に選挙で投票を依頼するなど党利党略に使用することはあってはならないし、ましてや大臣の保身のために部下に責任を転嫁するなどは論外の極みである。

 稲田大臣はようやく辞任したが、彼女の残した負の遺産は極めて大きい。我が国のシビリアンコントロールが危機に瀕していることを懸念する。

 (M・G)