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店舗外観は「トレードドレス」?

中部経済新聞2017年7月掲載
店舗外観は「トレードドレス」?

【よく似たお店?】
最近、有名な珈琲チェーンによく似た店構えの喫茶店が、よく似ていてだめだということで裁判所から差し止めの決定を受けたとか、そんなニュースを見たんですが...。
ああ、あの珈琲チェーンの件ですか。東京地裁の差し止めの仮処分の決定ですね。
いつも契約関係などご相談している当社の飲食事業なんですが、最近、当社の店によく似たお店があるらしいんです。それで、あのニュースをみて、当社もそのよく似た店に何か文句が言えるんじゃないかと思いまして...。
確か、御社の飲食事業は、都会にありながら海辺にいるような気分になれるカフェというコンセプトで、外観や内装も海の家をイメージしたものでしたよね。
そうなんです。当社の飲食事業はサーフィンが好きな私が半ば趣味で始めたのですが、お陰様で県内に数店舗展開するまでに成長しました。ところが最近になって、県内に同じような外観の店があって、当社の店舗と間違えて入ったら違う店だった、という話をお客さんから耳にするようになりまして。
【店舗外観の保護】
なるほど。それは例の珈琲チェーンの裁判で争点になっていた店舗外観の保護の問題ですね。店舗の外観の保護については不正競争防止法2条1項1号と2号に定められている「他人の商品等表示」の使用の問題として議論されています。珈琲チェーンの件でも、これらの規定に違反したとして差し止めの請求がされて、認められています。店舗の外観が商品等の表示になるかどうかは、いわゆる「トレードドレス」の問題として今までも議論されていましたが、実際に保護が認められたのは初めてなんですよ。
店の外観は商品のパッケージのようなもの、ということですか?
そういうイメージですね。でも、お店の外観であればただちに商品等表示になるわけではありません。先ほどの東京地裁の仮処分の決定では①店舗の外観が他の同種店舗とは異なる顕著な特徴を有していて②需要者の間で当該外観を有する店舗における営業が特定の事業者の出所を表示するものとして広く認識されるに至ったと認められる場合に、「商品等表示」として、不正競争防止法で保護されると判断されました。
要するにどういうことですか?
店の外観に顕著な特徴があって、店に入ろうとする人にとって、あそこがやっている店だとすぐにわかる、というようなことです。例の珈琲チェーンの仮処分決定ではこれが認められました。
【顕著特徴】
当社の店はどう判断されるでしょうか。
そうですね。御社のやっているカフェは、いずれの店舗も、都心部にありながら白木の壁面にサーフボードを立てかけたり、お店の前に青い木のベンチやヤシの木を置いて、海辺の雰囲気を楽しんでもらうというコンセプトですよね。これがカフェという業態の他のお店と比べて顕著な特徴といえるかどうかをまず検討することになります。
あの珈琲チェーンほど特徴的かと言われるとどうだろう...。
店舗外観に顕著な特徴があるとは簡単には認められないのが現実です。とはいえ、外観を構成するいろいろな要素の組み合わせで判断されますので、一概にはいえないですよ。東京地裁の決定では、内装のデザインも組み合わせて判断されていますし。もっとも、建物の場合は機能上必然的に同じような部分が出てきてしまいますから、難しいことは確かです。
【出所表示機能】
それと、あれは当社の店だと、ぱっと見てお客さんにわかってもらえるか、ということですよね。
そこが難しいんですよね。不正競争防止法で商品等表示が保護されるのは周知または著名なものの場合ですが、珈琲チェーンの件では、そもそも商品等表示にあたるかどうかの判断でも、周知性、つまり需要者によく知られているかが検討されています。周知性は特定の地域に限って周知であればよいとされているので、今回は愛知県内で広く知られていればいいことになります。でも、正直いってこの立証もそう簡単ではありません。
具体的にはどうやって立証すればいいんでしょうか。
雑誌やテレビでお店が紹介されたことはありませんか?確か、タウン誌に広告を出しているし、グルメサイトにも載せていましたよね。お店を利用したお客さんが書いてくれた口コミやブログ記事はありませんか?
ああ、それなら出せそうです。そういうものがあれば、周知だと認めてもらえるんですか?
紹介された媒体の種類や、紹介された回数、それに内容的に外観の特徴に着目したものになっているかも重要です。
【今後の検討】
なるほど。一般論や裁判所の考え方はよくわかりました。そう簡単ではなさそうですが、まずは資料を集めてまたご相談したほうがよさそうですね。よく似たお店というのも自分で見にいって写真を撮ってきます。
店舗の外観が商品等表示として保護されるハードルはかなり高いですが、今回東京地裁が初めて認めたことで流れが変わる可能性もありますよ。ひとまず、写真や記事などの資料を持って来ていただければ、もっとよく検討してみます。また、店舗の外観が商品等表示として保護されても、実際にその店と似ているといえるのか、御社に損害が出ているのかも、裁判などしようというときには検討が必要になりますしね。
そうですね。またご相談します。