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賃金全額払いの原則

中部経済新聞2017年7月掲載
賃金全額払いの原則

【質問】

当社は,来月より,慰安旅行の積立金として,従業員の給料から3000円を天引きしようと思います。何か手続が必要なのでしょうか。

【回答】

労働基準法24条第1項本文は「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」と定めています。ですから,原則として,賃金の一部を差し引くことは認められていません。これを賃金全額払いの原則と言います。

しかし,同項のただし書きは「法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。」として,賃金から差し引くことができる場合を例外的に定めています。

すなわち,賃金の一部を差し引くことができるのは,①法令に定めがある場合と②賃金の控除に関する労使協定がある場合となります。

①法令の定めにより控除が認められているのは,所得税,住民税,各種の社会保険料です。

ご質問の慰安旅行の積立金の控除については,法令の定めがありませんので,労使協定によって控除を定めることが必要となります。なお,この協定書は労働基準監督署に届け出る必要はありません。

その他にも,購買代金,労働組合費,社宅費用,財形貯蓄積立金,団体保険料等の項目を天引きする場合には②賃金の控除に関する労使協定が必要となりますのでご注意下さい。