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少額訴訟で時間と費用節約

中部経済新聞2016年12月掲載
少額訴訟で時間と費用節約

社長 10万円か...。
弁護士 どうかしましたか。
社長 12月だから大掃除していたら,ちょっと前に知り合いに貸した10万円の証書が見つかったんだよ。それで電話をかけて請求したんだけど「知らない」と言われてしまって。
弁護士 返してもらえなかったんですか。
社長 そうなんだよ。10万円は痛いけど,訴訟とかすると時間もかかるし面倒だから,泣き寝入りかなと思ってね。

【少額訴訟手続】

弁護士 それならば,少額訴訟という手続きもありますよ。
社長 どんな手続きなの?
弁護士 原則として,1回の期日で審理を終えて判決をする,特別な訴訟手続です。金額の小さな紛争を少ない時間と費用で迅速に解決することを目的としており,60万円以下の金銭の支払を求める訴訟を起こすときに利用できます。
社長 今回は10万円の請求だから利用できそうだね。

【少額訴訟の注意点】

弁護士 そうですね。ただし,被告となる相手方が裁判期日より前に少額訴訟手続ではなく通常の手続による審理を求める旨を述べた場合や,裁判所が紛争の内容が複雑などの理由で1回での審理では終了しないと判断した場合は,簡易裁判所での通常の訴訟となります。
社長 必ずしも全てが少額訴訟になるわけではないんだね。
弁護士 そうなんです。また,逆に言うと1回の審理で全て決まってしまうので,訴訟を提起する時点で自分のすべての言い分と証拠を裁判所に提出することが必要です。
社長 漏れがないようにしなければいけないね。
弁護士 そうですね。裁判所に提出する証拠も,即時での解決を目指すため,審理の日にその場ですぐに調べることができるものに限られます。契約書,領収書,覚書のほか,交通事故の場合の事故証明などの証拠書類は漏れなく提出する必要がありますし,もし,証人や当事者本人に尋問する場合には,裁判の日にその場で尋問できるよう準備する必要があります。
社長 なるほど。

【裁判期日】

弁護士 裁判期日では,1回で審理が終了できるようにするため,通常の法廷ではなく,基本的には,裁判官と共に丸いテーブル(ラウンドテーブル)に着席する形式で,審理が進められます。
社長 話がしやすい環境になっているわけだね。
弁護士 そうですね。ですから,原告,被告の話を十分に聞いて,場合によっては,和解といって,話合いにより解決を図ることもできます。
社長 この知り合いとは今後も付き合いが続くので,話し合いでお互い納得できる解決が図れるのであればいいね。

【少額訴訟での判決】

弁護士 話し合いによる解決が困難な場合は,原則として,その日のうちに判決を言い渡されることになります。
社長 判決までその日のうちに出るのはすごいね。
弁護士 しかも,少額訴訟では通常の裁判とは少し違った判決がでる場合があります。
社長 どんな判決なの?
弁護士 通常の民事裁判での判決は。原告の言い分を認めるかどうかを判断するだけですが,少額訴訟では,一定の条件のもとに分割払,支払猶予,訴え提起後の遅延損害金の支払免除などを命ずることができるんです。
社長 なるほど。当事者が話しやすい環境で審理をして,当事者のおかれた状況を考慮することができるわけだ。

【異議申し立て】

弁護士 判決に不満がある場合の手続きも通常訴訟とは異なります。
社長 どう異なるのかな。
弁護士 簡易裁判所での通常訴訟であれば,上級裁判所である地方裁判所に控訴の手続きをとることになりますが,少額訴訟では控訴は認められていません。もし判決に不満がある場合には,同じ簡易裁判所に異議の申立てをすることになります。 しかも,先にお話しした判決に付された分割払,支払猶予,訴え提起後の遅延損害金の支払免除などの定めに関する裁判に対しては異議を申し立てることはできません。
社長 そうなんだ。異議を申立てた後はどうなるの。
弁護士 異議後の審理は,少額訴訟の判決をした裁判所と同一の簡易裁判所において,通常の手続により審理及び裁判をすることになりますが,異議後の訴訟の判決に対しては控訴をすることができないなどの制限があります。
社長 なるほどね。便利な手続きだと思ったけれども,いろいろと注意しなければならない点も多いんだね。
弁護士 そうですね。今回の社長の件は,少額訴訟に適しているように思いますが,事案によっては色々な問題点が隠れている場合があります。少額訴訟は手続き自体簡易ですが,本当に少額訴訟とすることが適切なのか,難しい問題もありますので,まずは我々弁護士にご相談ください。
社長 相談するだけでも大きな違いがありそうだね。一人で悩まず相談するよ。