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中部経済新聞2016年01月掲載 成年後見制度とは

社長 最近、うちの会社の役員になっている父の物忘れが激しくなってきてね。
弁護士 ご高齢なのですか?
社長 今年で75歳になるのだけど、この先、認知症で判断能力がなくなってしまったらと思うと心配でね。
弁護士 そうですか。成年後見制度についてはご存知ですか?
社長 聞いたことはあるけど、詳しくは知らないなぁ。どういうものなのかな?

【成年後見制度とは?】

弁護士 認知症、知的障害、精神障害などの理由で判断能力の不十分な方を保護し、支援するのが成年後見制度です。大きく分けて法定後見と任意後見とがあります。

【法定後見】

社長 法定後見というのは、法律が定めているということ?
弁護士 そうです。民法では、後見、保佐、補助という3つの類型を定めています。親族等が家庭裁判所に後見人等の選任を申立て、家庭裁判所が後見人等を選任することになります。
社長 どう違うのかな?
弁護士 後見は常に判断能力が欠けている方を保護するための制度で、後見人が選任され、本人に代わって契約を締結したり、契約を取り消したりします。保佐は、判断能力が著しく不十分な方を保護するための制度で、保佐人が選任されます。保佐人は表のように民法13条1項所定の行為につき同意したり、取消したり、家庭裁判所が審判で定めた特定の法律行為を代理したりします。
社長 保佐の場合は判断能力が欠けているわけではないから、保佐人の権限が限定されているんだね。では、補助の場合は?
弁護士 補助は、判断能力が不十分な方を保護するための制度で、補助人が選任され、家庭裁判所が審判で定めた特定の法律行為を代理したり、同意したり、取消したりします。
社長 「不十分」といった判断能力はどのように決められるのかな?
弁護士 申立てに際して提出する医師の診断書に基づいて、裁判所によって決められます。
社長 後見人などが選任されると、本人に何らかの制限が生じたりするのかな?
弁護士 そうですね。本人が後見開始・保佐開始の審判を受けると、医師、税理士等の資格や、会社役員、公務員等の地位を失うことになります。ただ、補助開始の審判については、資格制限に関する規定はありません。
社長 後見や保佐の場合には、会社役員の地位を失うということか...
弁護士 ただ、後見人が選任された場合でも、本人の意思が従前より尊重されるようになったんですよ。
社長 どういうことかな?
弁護士 平成25年5月に「成年被後見人の選挙権の回復等のための公職選挙法等の一部を改正する法律」が成立し、6月30日施行されたため、7月1日以後に公示・告示される選挙については、成年被後見人も選挙権・被選挙権を有することになりました。
社長 なるほどね。財産の管理についての判断と、誰に投票するかについての判断は異なるからだね。 そういえば、認知症の場合は遺言が有効であるかどうかについて争われることがあると聞いたんだけど、認知症になって成年後見人が選任された場合には、遺言を作ることはできるのかな?
弁護士 成年後見人が選任された成年被後見人は、事理を弁識する能力を一時回復したときには、遺言をすることができます(民法973条)。 その場合には、医師2人以上の立ち会いがなければなりません。さらに、遺言に立ち会った医師は、遺言者が遺言をするときに、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠いていなかった旨を遺言に付記し、署名・押印しなければならないとされています。
社長 後に紛争が生じないようにするためだね。そういえば、法定後見のほかに、任意後見という制度があるということだけど、どういうもの?

【任意後見】

弁護士 任意後見は、本人が十分な判断能力があるうちに、将来、判断能力が不十分な状態になった場合に備えて、あらかじめ自らが選んだ代理人(任意後見人)に、自分の生活、療養看護や財産管理に関する事務についての代理権を与える契約を公正証書で締結するというもので
社長 えっ、判断能力があるうちに?
弁護士 そうです。法定後見の場合は、家庭裁判所が選任するので、本人の意向が反映されるとは限りません。そのため、判断能力があるうちに、自ら代理人を選んでおき、判断能力が低下した後に、任意後見人となってもらい、家庭裁判所が選任する任意後見監督人の監督のもとで、任意後見契約で定めた事務をしてもらうわけです。
社長 そういう方法もあるんだね。今度、父と一緒に相談させてもらうよ。

成年後見人等の権限

後見保佐補助
成年後見人等に 必ず与えられる権限 財産管理についての全般的な代理権, 取消権(日常生活に関する行為を除く) 民法13条1項所定の行為(※1)についての 同意権, 取消権(日常生活に関する行為を除く)
成年後見人等に 申立てにより与えられる権限 (申立ての範囲内で家庭裁判所が審判で定める権限)※3 民法13条1項所定の行為(※1)以外の事項についての同意権,取消権 (日常生活に関する行為を除く) 「特定の法律行為」(※2)についての代理権 民法13条1項所定の行為(※1)の一部についての同意権,取消権(日常生活に関する行為を除く) 「特定の法律行為」(※2)についての代理権

※1 民法13条1項では、借金,訴訟行為,相続の承認や放棄,新築や増改築などの行為が挙げられています。

※2 民法13条1項に掲げられている同意を要する行為に限定されません。

※3 本人に以外の者の請求により、保佐人に代理権を与える審判をする場合、本人の同意が必要となります。補助開始の審判や補助人に同意権・代理権を与える審判をする場合も同じです。