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中部経済新聞2015年3月掲載
リベンジポルノ防止法について -ネット普及で社会問題に-
中部経済新聞2015年3月掲載
リベンジポルノ防止法について -ネット普及で社会問題に-
リベンジポルノという言葉をご存知でしょうか。恋人や配偶者との関係が破たんした際、交際中に撮影したわいせつな写真・動画をインターネット上に流出させるなどの行為のことを言います。
1.「私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律」
従来、このような行為に対しては、わいせつぶつ頒布罪、名誉毀損罪、児童ポルノ禁止法等で対処していました。
しかし、スマートフォンなどの普及により容易に写真や動画を撮ることができ、かつ、それを、インターネット上で公開することも簡単なことから、急速に被害が拡大し、社会的問題となりました。そこで、直接、リベンジポルノを処罰することを目的として、昨年末「私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律」が制定されました。
2.処罰対象
この法律で処罰の対象となるのは、
- ① 性的画像を、本人の許可なく、その映っている人物を特定できてしまう方法で不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者(公表罪)、
- ② ①の行為をさせる目的で、性的画像を第三者に提供した者(公表目的提供罪)です。
性的画像を写真にしてばらまいたり、インターネット上に投稿したりする行為(①)はもちろんのこと、SNS等により拡散目的で特定の少数者にこのような画像を提供した行為(②)も処罰の対象になります。
3.罰則
①については、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金、②については1年以下の懲役又は30万円以下の罰金と規定しています。
4.画像の削除
インターネット上に自分の性的画像が公表されていることがわかった場合、早急にプロバイダ等に削除依頼を行い、拡散防止を図らなければなりません。
一般的にプロバイダが画像記録を削除するためには、当該画像記録の発信者の同意を得ることが原則です。そして同意を求めても一定期間内(通常7日間)に同意が得られなかった場合に、プロバイダ等は画像を削除することができます。
しかし、これではリベンジポルノによる被害拡散を防止するには遅すぎるということで、この法律に基づいて性的画像の削除を依頼する場合は、一定期間が2日間に短縮されました。
インターネットは全世界に公開されている媒体であり、いったんインターネット上で公開された写真や画像をすべて削除することが困難です。
これを防止するには、とにかくそのような写真や動画を撮らせないよう注意することが肝要です。
しかし、もし被害にあってしまった場合には、被害拡散を防止するためにも直ぐに弁護しにご相談ください。
また未成年者が被害を受けた場合、対処方法がわからず一人で抱え込んでしまうケースも見受けられます。新学期が始まるこの機会に年頃のお子さんがいらっしゃるご家庭ではぜひ話題にしていただければと思います。
先日、この法律が成立した契機とも言われている「三鷹ストーカー殺人事件」の控訴審判決がありました。
この事件は、元交際相手の女子高生を殺害したとして、殺人と住居侵入、銃刀法違反の罪に問われたものですが、被告人が交際中に撮影した被害者の画像をインターネットで拡散させる「リベンジポルノ」行為をした点で、大きく報道されました。
一審判決は、このリベンジポルノ行為について「殺害行為に密接に関連し、被告人に対する非難を高める事情として考慮する必要がある」と指摘し、懲役22年の判決を宣告したのですが、控訴審は、「起訴されていない名誉毀損罪を実質的に処罰しており、違法」と判断し、この一審判決を破棄し、再度、裁判員裁判による審理をするよう、差し戻す判決をしたのです。
ポイントは、この事件の被告人は、リベンジポルノ行為について名誉毀損罪で起訴されていないという点です。
刑事裁判では、起訴されていない事実を、情状面で考慮することは許されていますが、それを超えて、余罪として実質的に処罰することは許されないという大原則があります。
この事件でも、一審判決はリベンジポルノ行為を「情状の範囲内」で捉えたのでしょう。しかし、リベンジポルノ行為が名誉毀損罪による実質的な処罰とならないように、裁判員が裁判手続きに関与する前に、リベンジポルノ行為についての検察官による立証をどの程度にするのか、裁判所、検察官、弁護人で議論して整理すべきところ、これが十分になされていなかったようです。
そこで、控訴審は、先に述べた刑事裁判の大原則を守りつつ、市民感覚を取り入れた適正な判断がなされるよう配慮し、再度、裁判員裁判による審理がなされるよう、判決をしたのだと思われます。