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新入社員の内定取り消し -採用内定には法的拘束力-

中部経済新聞2015年1月掲載
新入社員の内定取り消し -採用内定には法的拘束力-

社長 まいったなぁ。この円安の影響でうちもかなり業績が悪くなってさあ,今年は新入社員の採用内定を取り消そうかと思うんだよ。
弁護士 それは,大変ですね。
社長 採用内定の連絡はしちゃったけどまだ内定段階だから取り消しても大丈夫だよね
弁護士 社長そう簡単に採用内定を取り消すことはできません。採用内定は,始期付解約権留保付労働契約という契約の一つですから法的拘束力がありますよ。
社長 始期付っていうのはどういう意味だい。
弁護士 採用内定されてから実際に会社で働くまでに期間がありますので,例えば四月一日がきたら就労を開始するとして,開始時期が定められているという意味です。
社長 でも解約権留保付ということは,解約権があるってことだから会社は採用内定を取り消せるってことじゃないのかい。
弁護士 解約権が留保されているのは,採用内定から入社までの期間に事情の変更が起こることを想定して認められるものです。ですから自由に解約が認められるわけではありませんよ。例えば陰気な印象だから当初から不適格だと判断しながら,それを打ち消す材料が出るかもしれないということで採用内定をしたが,結局そのような材料が出なかったことを理由にした採用内定取消が無効であると判断された事例がありますよ。
社長 うちの会社のように会社の経営不振を理由に採用内定を取り消す場合はどうなんだい。
弁護士 会社の経営不振を理由に採用内定を取り消すことが許されるかどうかは,会社が一般社員を整理解雇する場合に準じて考えます。具体的には①採用内定を取り消さなければならない客観的必要性②採用内定取消を回避する可能性,回避努力の有無③人選基準の合理性と妥当性④十分な協議説明等手続の妥当性から総合的に判断されます。
社長 そうか,なかなか厳しそうだな。例えば学生が大学を卒業できなかった場合には会社は採用内定を取り消すことができるよね。
弁護士 そうですね。通常会社側は大学を卒業することを条件に採用内定していますので,卒業できなければ,条件を満たさないということで採用内定を取り消すことが認められます。
社長 履歴書に事実と異なる記載があったり,記載漏れがある場合も会社は採用内定を取り消すことができるよね。
弁護士

一概には言えません。履歴書に虚偽の国籍と本名ではなく通称名を記載したことを理由に採用内定を取り消した事例で,会社側の国籍を理由とする差別的扱いであり採用内定取消は無効であると判断された事例があります。

一般的には,履歴書に事実と異なる記載や記載漏れがあった場合,その内容が今後の労務提供に問題を生じさせたり,信頼関係を維持することができないくらい重大なことであれば採用内定を取り消すことができますよ。
社長 じゃあ重大なことってどんな場合なの。
弁護士 個別ケースによりますが,例えば,採用するかどうかの判断に大きく影響する最終学歴や職歴,刑事事件での処分歴などは該当する可能性が高いでしょう。
社長 そういえば,アナウンサーとして採用内定を受けた女子学生が,ホステスのアルバイトをしていたことを理由に採用内定を取り消されたことで,TV局を相手に裁判を起こしたっていうニュースを読んだけど,あれはどうなの。
弁護士 その事件は採用内定に戻す和解となりましたね。詳しい内容がわからないので何とも言えませんが,過去にどのようなアルバイトをしていたかをすべて申告する義務があるとは思えませんし,ホステスのアルバイトをしていたことだけを理由にアナウンサーの採用内定を取り消していたとすれば,会社側が不利だったのではないでしょうか。
社長 うちも採用内定取り消したら裁判起こされるかな。
弁護士 従業員としての地位の確認や,それを前提として支払われるべき賃金,慰謝料の請求をされるかもしれませんね。
社長 よし,採用内定取消以外に方策はないのか検討してみるよ。また相談にのってね。