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【言わせてチョ】 契約と公約

中部経済新聞2014年12月掲載 
【言わせてチョ】 契約と公約

 「約」という文字には、ちぎる(契る)という意味がある。同じ意味の漢字を重ねた言葉が「契約」である。大学で法律を学び始めた頃に「契約は守られなければならない」という大原則を知り、約束なのだから当たり前だと思った法学部生は筆者だけではないと思う。とはいえ、この大原則は大きな法的拘束力を持っており、契約を守らなければ債務不履行となって、契約を解除されたり、損害賠償を請求されたりする。

 さて、この「約」という文字を含む最近よく見た言葉と言えば候補者の「公約」である。広辞苑によれば、公衆に対して政策などを約束することという意味である。ところが、この選挙の公約は、選挙期間中限りのきれい事で守られないものという認識が一般的ではないかと思う。同じ「約」という文字を使用しながら、一方は守られなければならず、他方は守られなくても良いというのは解せない。条約、密約、盟約などの言葉も守られることを前提とした言葉だと考えられる。

 では、何故「公約」には拘束力がなく、守られなくても責められないのだろうか。一つの考え方として、政治情勢は日々刻々と変化していくから、選挙の時と政治を取り巻く情勢が大きく変わることがありうる。そのような時にまで公約に拘束されては、真に国民のためになる政治決断をすることができない危険があるので、公約には拘束力がないとの考え方があり得る。

 確かに、法律の世界にも「事情変更の原則」が存在する。この原則は、契約後に事情が変化したことで、契約当時の内容を適用することが非常に不公平となる場合、契約内容を変更することができるという考え方である。しかし、契約は守られなければならないという大原則に対する例外なので、事情変更の原則の適用要件は厳しく、適用範囲は極めて限定的である。

 そうすると、選挙の時に公約した事項について、国会での議論過程を通じて議員個人の意見が変わる可能性があるから公約を守らなくて良いのだろうか。それなら、政党として公認候補者共通の公約を掲げた政党が、過半数を獲得した場合には、当該政党は公約を守らねばならないことにならないか。

 本稿作成時は選挙期間中であるが、本稿掲載時には選挙結果が出ている。原発や議員定数削減等について公約を守らなかった政党・候補者に対して、有権者はどこまで寛容なのか、それこそが公約の本当の拘束力ではないだろうか。  (NU)