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秘密保護法の施行  指定範囲や適性評価濫用危惧 情報保護より処罰化重視

中部経済新聞2014年12月掲載
秘密保護法の施行  指定範囲や適性評価濫用危惧 情報保護より処罰化重視

社長 12月10日に秘密保護法が施行されてしまったね。
弁護士会も制定に反対しとったし、問題だな、と私も思っとったが、今となってはどうしようもないんじゃないかな。
弁護士 そんなことないですよ。
それに、与党自民党の議員からも、政府の秘密保護法の運用基準では秘密指定の濫用を防止できんじゃないか、という批判が出ているのですよ。
法律の運用を好き勝手にさせないためにも、秘密保護法には反対だ、と言い続けることが重要だと思うんです!
社長 じゃあ、どの辺が問題か、改めて考えてみようか。
私の疑問はだな、だいたい、国の安全を守るためには秘密が漏れるようではいかん、ということだけどな。
弁護士 たしかに社長、秘密保護法をつくるきっかけも国の安全を守るために情報をどう管理するか、という点にあったのです。
でも、秘密保護法がないから秘密が漏れていた、というのではなくて、国の役所の中でも何を秘密にし、誰が秘密を扱えるのか、ということすら、役所毎にまちまちだったことが問題だった。
国の秘密というのは、昭和40年の事務次官会議の申し合わせで秘、極秘、機密と三段階に指定され、公開しない、という運用となっていたのですが、ある省庁が秘密としても、他の省庁では秘密ではない、と、極端な話、そういう状態だったんです。
社長 マル秘、というあれだね。ありゃあ、法律の根拠じゃなかったのかね。
弁護士 そうです。官僚の取り決めだけ。
そこで、役所の扱いを統一化しよう、という動きが出てきた。
これだけなら、秘密指定を統一することと、誰が情報にアクセスできるかをきちんと法律で決めるだけで足りたはず。
それがいつのまにか、情報漏えいを厳しく処罰したり秘密を知ろうとすることを処罰しようという法律に変わってしまったところが最大の問題です。
社長 しかしだな、秘密の扱いをきちんとしたのなら、まあ、必要悪じゃないのかね。
弁護士

いや、きちんとしていないのですよ。
国の説明だと、防衛、外交、スパイやテロの防止に関する情報のなかから、政府が決めた運用基準にしたがって特定秘密とする情報を指定することになっています。
しかし、そもそも運用基準は法律じゃないから、閣議決定で変えることができる。しかも、この10月に閣議決定された運用基準は、秘密の指定の拡大に歯止めをかけられるようなものになっていない。
国の安全と関係しない情報だって秘密指定できる。秘密指定の対象となるテロやスパイに関する情報だって、犯罪の捜査情報一般にまで拡大させることが可能です。

それだけでなく、特定秘密を漏らした場合の罰則は最長で懲役10年。重いです。

社長 ただ、情報を扱う人が漏らしたのならしょうがないのじゃないかな。
弁護士 いやいや、情報を扱っていない外部の人も、秘密指定された情報を入手しようとしただけでも処罰できるとされている。
もちろん、報道機関の人も外部の人に含まれます。このことが極めて大きな問題です。
いいですか、社長。内部の人が情報を漏らしたとなれば、有罪にするためにはどういう情報を漏らしたかを法廷で明らかにしなければならない、という自己矛盾に直面します。
一方、外部の人が情報を入手しようとしたことを理由に処罰するためには、その情報が特定秘密に指定されていることを知っていながら、その情報を入手しようとした、ということを証明するだけで良い。
つまり外部の人を処罰するためには、そういう危険は、まず考えなくても良いから・・。
社長 そうか。情報を知ろうとする人だけが処罰されるということになるな。
弁護士 まさに!報道機関だけを狙い撃ちすることもできますよね。
社長 それは大変だな。だが、秘密を扱う人をチェックできるようになったのは良い事と言えんの?
弁護士 適性評価ですよね。
これもプライバシー侵害などの問題が多い。
過去10年間で躁うつ病などの精神疾患に関してカウンセリングをうけたことや酒による失敗、といった情報まで調査できるし、民間人も一定の場合に調査できることになっている。
法律上、嫌なら調査を受けなくてもいいことになっているけれど、そうしたら仕事を失いかねないから、結局みんな調査に応じることになってしまうんです。
社長 そういう調査って外国でもやっとるでしょう?
弁護士 適性評価みたいな制度は米、英、独、仏などでもありますが、米国での調査事項は日本の適性評価よりも遙かに限定的です。
英、独、仏では取得した個人情報が適正に管理されているかを監視する第三者機関が存在しており、我が国の制度とは根本的に違います。
社長 わかったが、今になって廃止といっても効果はあるのかね。
弁護士 大いにあります。
12月10日に施行されてしまった今だからこそ、廃止を訴え続ける人がこんなにもいる、と政府に思わせることが、まずは秘密指定や適性評価の濫用を防ぐ大きな力になるのですよ。社長!
社長 よし、廃止に一票!