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来年から基礎控除額、税率が変更早めに相続対策を

中部経済新聞2014年11月掲載
来年から基礎控除額、税率が変更早めに相続対策を

社長 9月の敬老の日にさ,うちの子どもたちがおじいちゃん,おばあちゃんにプレゼントを渡したいって言うもんだから,実家に行ってきたんだよ。
弁護士 へえ,いいお子さんたちですね。
社長 そうだろう,そうだろう。
いや,話したいのは子どものことじゃなくて,そのときに,父が,相続税が増税されるって話を耳にしたとかで,いろいろと尋ねられたんだよ。
弁護士 平成27年1月1日以後に生じる相続については,基礎控除の額,税率などが変更されることになっていますね。
社長 ふうん。
そのときは父の質問に答えられなくてね。
今度教えてやるからって言って帰ってきたんだ。でさ,昨日,いつ教えてくれるんだって電話がかかってきちゃってね。父に説明ができるように,教えてもらえるとありがたいんだけどなあ。
弁護士 どうぞ,何でもご遠慮なくお尋ねください。
社長 それじゃ,基礎控除の額が変更されるっていうところから教えてもらえないかな。
弁護士 はい。
相続税は,遺産の総額が基礎控除の額をこえる場合に納税する必要があります。基礎控除には定額控除と法定相続人比例控除があって,これまでは,定額控除が5000万円,法定相続人比例控除が一人当たり1000万円認められていました。これが,平成27年1月1日以後は,定額控除が3000万円,法定相続人比例控除が一人当たり600万円になります。
社長 つまり,どういうこと。
弁護士 たとえば,夫が亡くなって,法定相続人は妻と子ども2人というケースでは,次の表のようになります。
これまで 定額控除 5000万円
法定相続人比例控除 1000万円×3人=3000万円
合計 8000万円
平成27年1月1日以後 定額控除 3000万円
法定相続人比例控除 600万円×3人=1800万円
合計 4800万円
この例で,遺産の総額が6000万円だったとしたら,これまでは相続税を納める必要がなかったのですが,平成27年1月1日以後は,相続税を納める必要が生じる可能性があるわけです。
社長 税率の変更というのは。
弁護士 各法定相続人が取得する金額が2億円超から3億円以下の場合の税率が40パーセントから45パーセントに,6億円超の場合の税率が50パーセントから55パーセントに引き上げられますね。
社長 なるほど,それで増税か。
ところで,父は,相続税対策に,お孫さんを養子にするといいですよ,と言われたそうなんだ。
これはどういうことなのかな。
弁護士 養子も法定相続人になりますので,先に申し上げた基礎控除の法定相続人比例控除の額が増えることになりますし,その他にも,死亡保険金の非課税枠なども法定相続人の人数に応じて増えることになります。そういった意味で,養子縁組をすることは相続税対策になりますね。
社長 養子が多ければ多いほど控除の額が多くなるってことなのかね。
弁護士 いいえ,
相続税の総額の計算上,法定相続人の数に算入する養子の数は,被相続人に実子がいる場合には原則として1人までです。
社長 そう上手くはいかないか。
弁護士 それに,養子縁組は,法律上の親子関係を生じさせる行為ですから,養子縁組によって扶養の権利義務が発生するなど,その影響は相続の場面に限られるものではありません。
また,相続の場面に関しても,養子縁組が租税回避行為とみなされてしまったり,遺産分割に際してトラブルの元になってしまったりすることもあります。
養子縁組については,慎重に判断する必要がありますね。
社長 なかなか難しいね。
あと,父は,業者から,相続税対策に,使っていない土地に賃貸アパートを建てましょうという話もされたそうなんだ。
弁護士 土地が貸家建付地という扱いになって,相続税評価額が下がるといった理由などから,相続税額が減少することにはなりますね。
社長 賃貸アパートを建てたとして,父が亡くなった場合には,
父と借家人との賃貸借契約はどうなるのかな。あらためて契約をし直すことになるんだろうか。
父は,私たちに,後々面倒をかけることにならないか,心配しているんだよね。
弁護士 賃貸人の死亡によっては,賃貸借契約は終了しません。
賃貸アパートを相続した相続人が,賃貸借契約上の賃貸人の地位を引き継ぐことになりますので,賃貸借契約は,それまでと同じ条件で継続することになりますよ。
社長 あらためて契約をし直す必要はないわけか。
弁護士 はい。
ただ,賃貸アパート経営というのは,資産運用,投資ですから,必ずしも当初の目論見通りに事が運ぶわけではありません。こちらも専門家に相談しながら,慎重にお考えいただかないと。
社長 いや,考えることばかりだね。
父は,遺言を作っていないことも気にしていたし,一度じっくり話をしてみるか。
弁護士 相続に関するトラブルを避けるためには,遺言を作成しておくことが重要ですね。
社長 節税のことばかり考えているわけにもいかないよね。
父にも遺言を作るよう勧めてみるから,また相談に乗ってほしいな。