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中部経済新聞2014年10月掲載
自動車運転死傷行為処罰法
中部経済新聞2014年10月掲載
自動車運転死傷行為処罰法
今朝、危険ドラッグっていうの?またあれを使って自動車事故を起こしたっていうニュースを見たよ。最近本当に多いね。 | |
そうですね。自動車での交通事故自体は減少傾向にあるんですが、薬物や飲酒の上での運転、無免許運転といった危険な運転による交通事故はなかなか後を絶ちませんね。 | |
以前から思っていたけど、悪質な交通事故のわりに刑罰が軽すぎるんじゃないかな? | |
実は、そういった声も受けて、今年の5月から自動車運転による死傷事故の刑事罰について大幅な改正がされたんですよ。 | |
えっ、そうなの? | |
ええ。今までは、自動車を運転して死傷事故を起こした場合、刑法の自動車運転過失致死傷罪や危険運転致死傷罪で処罰されていました。 | |
危険運転致死傷罪って、たしか飲酒運転みたいな悪質な運転による交通事故を厳しく処罰するために後から作られたものだったよね。 | |
そうです。ただ、悪質な運転による事故の中には、危険運転致死傷罪の要件に当てはまらないために、自動車運転過失致死傷罪が適用されるものも多かったんです。 |
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飲酒したり無免許で運転した場合の事故まで、うっかり、過失によるものだって言われても納得がいかないよね。 | |
そこで、刑法上の規定をなくした上で、運転の悪質性や危険性といった実態に即した処罰ができるように、新たに「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」(自動車運転死傷行為処罰法)が制定されたんです。 | |
新しい法律ができたんだ。今までとどう違うの? |
【危険運転致死傷罪】
まず、危険運転致死傷罪の適用範囲が大幅に広がった点がポイントです。従来定められていた、アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させたり、赤信号を殊更に無視して重大な交通の危険を生じさせる速度で運転して人を死傷させた場合などといった類型の他に、新たに、通行禁止道路における危険な走行によって人を死傷させた場合が追加されました。 | |
通行禁止道路って? | |
例えば、いわゆる歩行者天国や自転車専用道路なんかが挙げられますね。一方通行道路や高速道路の逆走なども含まれます。他の通行者や車にとって、まさか自動車が通行してくることはないはずだって思うような道路ですね。 | |
そんな道路を危険な速度で走ってこられたら、衝突を避けるのは難しいもんなあ。 | |
重大な事故につながりやすいですよね。ちなみに、危険運転致死傷罪の刑罰は、人を死亡させた場合は1年以上20年以下の懲役、負傷させた場合には15年以下の懲役となっています。 | |
20年!?当然ながら厳しいね。 | |
また、この危険運転致死傷罪より少しだけ罪の軽い、新たな危険運転致死傷罪も規定されました。具体的には、アルコールや薬物、又は病気のために正常な運転に支障が生じるおそれがあることを認識した上で自動車を運転して、結果としてそれにより正常な運転が困難になり事故を起こした場合、人を死亡させた場合は15年以下の懲役、負傷させた場合は12年以下の懲役に処せられることになります。 薬物などで正常な運転ができないかもしれないなあ、とわかっていた場合には、危険運転致死傷罪が成立しうるということですね。 |
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危険運転致死傷罪の範囲が広くなったんだね。危険ドラッグや飲酒運転の多くにも適用できそうだな。 |
【発覚免脱罪の新設】
他にも新しい規定はあるの? | |
これまでは、飲酒運転をして人を死傷させた際に、被害者を救護するために事故現場にとどまって危険運転致死傷罪で処罰されるより、自動車運転過失致死傷罪(当時)と道路交通法の救護義務違反(ひき逃げ)で処罰される方が刑罰が軽くなってしまうという可能性がありました。その結果、被害者を救護せずに事故現場から逃げてしまい、酔いが覚めてから出頭するというようなケースもあったんです。 | |
いわゆる「逃げ得」になっていたわけだね。 | |
そう。今回、その逃げ得を防ぐために、過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪が新たに設けられました。例えば、事故当時にお酒に酔っていたか、どのくらい酔っていたかを隠すために、事故後に更にお酒を飲んだりすれば、発覚免脱罪が成立して12年以下の懲役に処せられることになります。また、その場から逃げた場合であれば、救護義務違反(ひき逃げ)の罪と併せて最高で18年の懲役に処せられる可能性もあります。過失運転致死傷罪の刑罰が7年以下の懲役・禁錮又は100万円以下の罰金であることに比べると、やはり重いですよね。 |
【無免許運転による刑罰の加重】
無免許運転で事故を起こした場合にはどうなるの? | |
無免許運転で死傷事故を起こした場合には、事故類型によって3~5年程度刑罰が加重されることになりました。例えば、過失運転致死傷罪であれば、事故当時無免許運転であったとすると、法定刑が10年以下の懲役となります。 自動車の運転には運転免許を受ける必要があるというのは、最も基本的なルールですからね。無免許運転をしただけで道路交通法の無免許運転罪にはなりますが、さらに人を死傷させた場合には、運転免許のある状態での事故よりも重く罰せられることになるのです。 |
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ふーん。新しい法律ができて、事故の状況や原因に応じた適切な処罰が可能になったんだね。勉強になったよ。ハンドルを握る者としては、交通ルールはもちろん、法律もしっかり把握しておかないとね。 | |
そう。今回、その逃げ得を防ぐために、過失運転致死傷そうですね。あ、社長、お時間は大丈夫ですか? | |
おっと、お得意さんのところに行く時間だ。さあ、新しい法律のお世話にならないように、今日も安全運転で行くとするか。 |