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中部経済新聞2014年02月掲載 日本版クラスアクション

社長 泣き寝入りか・・・。
弁護士 どうかしましたか。
社長 先日、量販店でこの商品を3万円で買ったんだけど、直ぐに壊れてしまって...。欠陥があるんじゃないかと思ってメーカーに聞いてみたけど、取り合ってくれないんだよ。
裁判しても、費用の方が高くつくよね?
弁護士 「日本版クラスアクション」というのはご存知ですか。
社長 そういえば、この前、業界団体の会合で聞いたような・・・。
弁護士 「集団的消費者被害回復に係る訴訟制度」と言われていますが、今までは、社長のケースのように被害額が小さかったりして、訴訟とならなかった消費者被害の事案がありました。これを一括して実効的に被害回復できるようにするために新しく裁判手続の制度が作られたんです。
社長 私のケースでも被害回復できるの?

【対象となる事案】

弁護士 この制度では、消費者と事業者の間で締結される消費者契約(労働契約は除く)において生じた損害が対象となります。その損害というのは、法律で色々決められているのですが(下図参照)、例えば、社長のケースの場合、商品に欠陥があるとすれば、瑕疵担保に基づく損害賠償請求として対象になるものと思われます。
  • ① 契約上の債務の履行の請求
  • ② 不当利得に係る請求
  • ③ 契約上の債務不履行による損害賠償の請求
  • ④ 瑕疵担保責任に基づく損害賠償の請求
  • ⑤ 不法行為に基づく民法の規定による損害賠償の請求

【損害の範囲】

社長 この商品が壊れた時に危うく怪我をしそうになったんだけど、もし、怪我をしたら、その治療費や休業損害等は請求できるの?
弁護士 いいえ。この損害には、いわゆる拡大損害や逸失利益、人身損害、慰謝料は含まれないとされています。実際に対象となる損害の額は、おおむね商品代金相当額と思われます。 もし、怪我の治療費等まで請求するのであれば、今まで同様、個人で訴訟を提起することになります。
社長 事業者が拡大損害などの責任を免れるわけではないんだね。

【消費者契約の当事者】

社長 それでメーカー相手に訴訟するの?
弁護士 いいえ。社長のケースの場合、この制度がとられるとすれば、消費者契約の当事者である事業者は量販店ですので、量販店を被告として手続きが取られることになります。
社長の会社もメーカーですから、もし、この制度による訴訟が提起された場合、どう対処するか、量販店も含め検討しておく必要があると思いますよ。
社長 そっか。もし量販店が敗訴したら、当然メーカーに責任追及するだろうからね。

【二段階の手続】

弁護士 具体的な手続きを説明しますね。裁判手続としては二段階の訴訟となっていることがポイントです。
社長 二段階も訴訟をしなければならないなら、かえって消費者は大変じゃないの?
弁護士 いいえ。一段階目の訴訟では、消費者ではなく、特定適格消費者団体という、被害回復関係業務を適切に遂行することができると内閣総理大臣が認定をした団体が、原告として訴訟を提起します。
社長 消費者がやらなくていいんだね。
弁護士 そうです。それぞれの段階の訴訟を説明しますね。

【共通義務確認訴訟】

弁護士 一段階目は共通義務確認訴訟といって、対象となる一定の範囲の消費者に対して事業者が義務を負うべきことを確認します。例えば、社長のケースのように商品に欠陥があるか否かといった、消費者間に共通する問題の有無を審理することになります。
社長 確かにここは商品に関する専門的知識とか必要だろうから、お墨付きを受けた団体が消費者の立場で訴訟をしてくれるなら、実効性があるね。

【簡易確定手続】

弁護士 そして、訴えを起こした特定適格消費者団体側が勝訴すれば、二段階目の訴訟に進みます。二段階目は簡易確定手続といって、結局誰(消費者)にいくら払うのか、ということを確定します。
消費者はこの段階から訴訟に参加することになります。一段階目の裁判結果が様々な方法で消費者に周知され、対象に該当する消費者は、個々にその特定適格消費者団体に対し、手続きを依頼します。特定適格消費者団体は、消費者から依頼を受けた内容をまとめ、裁判所に届け出ます。そして、個別の事情に基づいて、事業者が消費者に支払うべき金額を認否することとなり、その後適格消費者団体が認否を争う申出をし、裁判所が簡易確定決定をするという流れで、実際に被害が認定されます。決定に不服のある当事者は異議訴訟を提起することになります。
社長 なるほど。消費者は対象となることだけ明らかにすればよいのか。負担は大幅に軽減されるね。

【企業としての対策】

社長 うちの会社も無関係じゃないな。さっき量販店との間でも対策を取る必要があると聞いたけど、消費者に対しても直接販売しているからね。
弁護士 そうですね。この法律の施行は、公布日から3年以内の政令指定日とされており、施行前に締結された契約に関する請求には、適用しないこととされています。この機会に、契約書に消費者契約法に違反する可能性のある条項がないか、見直しなどをすると良いと思います。
社長 私のケースに適用されないのは残念だけど、会社としての対策をするいい機会だ。今からやるから手伝ってよ。