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【言わせてチョ】 名張毒ぶどう酒事件の再審 間違い正す選択もある

中部経済新聞2013年12月掲載
【言わせてチョ】 名張毒ぶどう酒事件の再審 間違い正す選択もある

 (1) 名張毒ぶどう酒事件の報道で「再審」という言葉を耳にした人は多いだろう。

 (2) 再審とは,確定した判決について,一定の要件を充たす場合に限り,再度審理を行う制度である。刑事事件においては,有罪判決を受けた人のためにのみこれを行うことができるとされる。

 (3) 再審をすることが認められる場合としては,例えば,元の判決の証拠が偽造であることが確定判決により証明された場合などがある。また,有罪の言い渡しを受けた者に対して無罪や免訴,刑の免除,又は元の判決が認めた罪より軽い罪を認めるべき明らかな証拠をあらたに発見した場合もこれにあたる。名張の事件も後者を理由に再審請求をしているが,いずれも,有罪の確定判決における事実認定に誤りがあることが高度に推測される場合といえ,再審開始のハードルは高い。

 (4) このように,再審の開始に厳しい要件が課されている理由は,我が国の司法制度が1つの事件につき3回まで裁判を受けられる三審制を採用しているからだと言われる。3回も慎重に審理して出した判決に文句をつけようというのだから,要件は厳しくしましょう,ということだ。この考え方自体は正しいと思う。

 (5) しかし,今回,名張の事件において弁護側は,犯行に用いられた毒物の特定に関し,奥西死刑囚に無罪を言い渡すべき明らかな証拠があらたに発見されたと強く主張をしていた。これに対し,最高裁判所は,名古屋高等裁判所の再審取り消し決定を支持し,結論として再審開始を認めなかった。

 (6) 確かに,有罪判決が確定しているのになんでもかんでも再審を認めていてはきりがないだろう。しかしながら,率直に言って,今回の最高裁の判断には首を傾げざるを得ない。足利事件や東電OL殺人事件を思い出してみてほしい。三審制を尊重する必要はあるものの,確定判決であっても正すべき間違いはありうる。そもそも,再審の可否というのは,あくまで再審理をするかどうかの話なのだ。「明らかに無罪といえる証拠」ではなくとも,「有罪ではないと言いうる証拠」が出てきたのであれば,再審の開始自体は認めて,改めて審理するという選択は十分にあるだろう。というより,「疑わしきは被告人の利益に」という大原則からすれば,有罪判決の事実認定に合理的な疑いが生じる程度の証拠があれば,再審を認めるべきなのである。

 (7) この事件で最初に再審請求がされてから実に39年。奥西死刑囚はすでに87歳を迎えている。こんなに時間がかかるなら,再審を認めて今一度審理をする時間は十分にあったのでは。