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成立した特定秘密保護法 誰もが処罰される危険 明確さ欠く内容問題

中部経済新聞2013年12月掲載 
成立した特定秘密保護法 誰もが処罰される危険 明確さ欠く内容問題

社長 とうとう「特定秘密保護法」が成立してしまったね。
弁護士 我々は反対の意見を述べていただけに、非常に残念です。
社長 あっという間に成立した感があって、実は本当の内容をよく知らないんだよな。
弁護士 社長、国の秘密なんて関係ないと思っているでしょう。
社長 まあ...。「知る権利」や「プライバシー」が侵害されるという話は報道でも聞いたけど。あまり身近に感じないんだよね。反対デモとかも大げさに見えて...。
弁護士 それは違います。「知る権利」や「プライバシー」の侵害はもちろんのこと、この法律が恣意的に運用されると政府に反対するものを簡単に封殺できてしまうんですよ。
社長 本当に?

【法律の内容】

弁護士 この法律は①その漏えいが国の安全保障に著しく支障を与えるおそれがあるため、特に秘匿することが必要であるものを行政機関が「特定秘密」に指定し、②秘密を扱う人、その周辺の人々を政府が調査・管理するために「適性評価制度」を導入し、③「特定秘密」を漏らした人、それを知ろうとした人を厳しく処罰することを内容としています。
社長 国の安全保障のためなら必要なんじゃないの?

【罪刑法定主義】

弁護士 確かに、高度に情報社会化した中で、国として守るべき「秘密」があることは否定しません。しかし、この法律は重い刑罰規定を有するものです。この刑罰規定は、国家公務員等が「特定秘密」を漏えいした場合はもちろんのこと、「特定秘密」を取り扱う者に対し、情報を聞こうとする行為も教唆(そそのかし等)行為として処罰しますし、未遂犯や過失犯も処罰する内容となっています。それなのに、法律の内容は極めて曖昧で一義的でなく、罪刑法定主義に反しているのです。
社長 どういうこと?
弁護士 何が犯罪になるのかわからないまま刑罰が科されることがあっては困りますよね。そこで、法律は、犯罪とされる行為の内容、及びそれに対して科される刑罰を予め明確に規定しなければならないのです。これを罪刑法定主義といいます。
しかし、この法律は何が「特定秘密」になるのか明確にされておらず、どの情報を知ろうとすると犯罪になるのか分からないのです。

【行政機関が秘密を指定する危険】

社長 そんなに曖昧なの?
弁護士 先ほど説明したように、この法律では①何を「特定秘密」に指定するか、行政機関が自分で決めることが出来てしまいます。政府が国民に知られたくない情報をことごとく「特定秘密」に指定することができてしまうのです。国民がある情報を知ろうとした場合、知らないうちに、その情報が「特定秘密」に指定されていて、刑罰を科せられてしまう可能性があるのです。
社長 でも行政が指定するにしても、ある程度わかるんじゃない?
弁護士 分量は多くないので、一度この法律を読んでみて下さい。
法律上「特定秘密」の指定対象となりうる情報は、「防衛に関する事項」、「外交に関する事項」、「特定有害活動の防止に関する事項」、「テロリズムの防止に関する事項」と規定されていますが、条文からどのような情報なのか予測できますか?
社長 確かに抽象的だね。でも、我々がここにあるような事項に触れることはないように思うけど...。
弁護士 そんなことないですよ。例えば、社長が新規に軍事機密を取り扱っている会社と取引を開始しようとした際、その会社の情報を得ようと調査を行ったところ、「特定秘密」に指定されている情報に触れてしまい、調査行為が教唆として処罰されてしまうなんてことも考えられます。
社長 なるほど。我々が触れることはないと思っていても、政府が恣意的な運用をすると、なんでも処罰されてしまう可能性があるね。
弁護士 特に「テロリズムの防止に関する事項」なんかは、政府が何を「テロリズム」と想定するかによっては事実上無限定になってしまいますよね。
社長 そういえば、与党の幹事長が反対デモの「絶叫戦術はテロ行為とその本質であまり変わらない」というようなことを言っていたな...。
弁護士 直ぐに撤回されましたし、揚げ足をとるつもりはないですが、恣意的な運用がなされる危険を露呈したことは間違いないですね。
結局は政府の主観的な判断次第ですから、際限なく「特定秘密」の範囲が拡大する可能性があるのです。
社長 政府にとって都合の悪いことは全部「特定秘密」にできてしまうわけだね。
弁護士 そもそもこの法律が本当に必要なのか、という大前提の問題も議論されなければなりませんが,仮にそこは措いたとしても、政府に恣意的な運用をさせないような内容にしなければなりません。しかし、この法律には政府の恣意的な運用を防ぐ実効性ある手段が何ら規定されていないのです。
政府は適正な運用をすると述べていますが、何の保証もないのです。明らかに恣意的な運用は別にしても、政府のさじ加減で濫用される危険は否定できません。

【刑事事件での問題】

社長 なんか不安になってきたな。もし、私が逮捕されちゃったら、ちゃんと弁護してね。
弁護士 もちろん全力を尽くしますよ。でも、この法律のままだと、弁護活動が大幅に制限される可能性があるんですよ。
社長 えっ、どういうこと?
弁護士 本来、刑事裁判では、起訴状に記載された公訴事実について争われます。しかし、「特定秘密」の内容は起訴状には記載しない取り扱いがなされると思います。
社長 何を知ろうとしたことが犯罪になるのか分からないまま裁判になるということ?
弁護士 そうです。そもそも「特定秘密」に該当しないと争う場合はもちろん、秘密漏えいの結果が生じていない場合、そもそも何が争点になっているのかわからないまま、防御活動をしなければならなくなります。
社長 弁護人にも教えてもらえないの?
弁護士 この法律は、捜査や公判の維持に必要な範囲で「特定秘密」は開示されることを規定していますが、被告人や弁護人がその内容を知ることは想定されていません。
社長 そうだとすると、何も分からないままに刑務所に行かなければならないことも...。
弁護士 あり得ますね。
実際にそのような運用はなされないのかもしれませんが、なされる可能性があること自体が問題なのです。
それに、そもそもの問題として、このような国民の権利を大きく侵害する法律がなくても、国家の秘密を守る方法は別に考えることができるはずです。
社長 そういった議論をして欲しいね。
弁護士 はい。私たち弁護士も引き続き、この法律の廃案を求めて活動したいと思います。
日本弁護士会連合会のホームページでも、この法律の問題点を解説していますので、是非ご覧下さい。