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監視社会でいいの? 「秘密保護に潜む危険 全国民が調査対象に」

中部経済新聞2013年11月掲載 
監視社会でいいの? 「秘密保護に潜む危険 全国民が調査対象に」

 「特定秘密保護法」が成立しようとしている。防衛・外交・安全脅威活動の防止・テロ活動防止に関する事項のうち特に隠す必要性がある機密(「特定秘密」)を保護するための法律案である。

 マスコミなどが盛んに「知る権利」の侵害を訴えているが、イマイチ世間の関心事になっていないように思える。なるほど、昨今の焦臭い外交情勢からすると、国家の秘密を守ることは重要...か。

 しかし、この法律案、よく読んでもらいたい。一見、国家機密を取り扱っている公務員に対する守秘義務を定めたもののように思えるが、それならば国家公務員法等を改正すれば良い。本当の狙いは我々国民を規制することにあるのではないだろうか。

 「国家の秘密とか関係ないし...」と、無関心にだけは、どうかならないで頂きたい。思っている以上に我々に関係しているのだ。

 というのは、この「特定秘密」は、政府が勝手に指定する。とすれば、我々が知らないうちに、政府が指定した「特定秘密」に触れようとしている可能性はある。実際に処罰されないにしても捜査の対象になることは十分に考えられるだろう。

 なぜなら、「特定秘密」になる情報は、当然、我々が「知りたい」情報でもあるからだ。例えば原発の情報でも、我々が知りたくとも政府にとって都合の悪い情報は、テロ対策などの理由で「特定秘密」と指定することができてしまうのだ。

 処罰だけではない。政府は、我々のプライバシーを丸裸にできてしまう。

 この法律案は、「適性評価制度」として、政府が「特定秘密」を扱う人に対し、住所や職歴はもちろん、外国への渡航歴、ローンなどの返済状況、精神疾患などでの通院歴等々...挙げ句の果ては飲酒の節度まで調査できると規定する。この「特定秘密」を扱う人は、国家公務員だけでなく、地方公務員、政府と契約関係にある民間事業者、大学等で働く人など一般人も対象だ。しかも、その調査対象は、その人の家族や同居人、恋人、友人などにも及ぶ。こうなると全国民が調査対象と言っても過言ではない。

 国会中継等での政府答弁をみると、外交・防衛上の必要性がやたらと強調されているが、要は「政府を信じて。国民の情報をちょっと管理するけれど、普通にしていれば関係ないので心配しないで。」ということなのだろうか。しかし、そこには「ただ、少しでも政府に反抗するような素振りがあれば、取り締まるよ。」という意図が透けて見える。

 政府に対し、ここまで国民を監視する権限を与えないと、国家の秘密は守れないのだろうか。安倍首相は「強い日本」がお好きのようだが、強さとは何か、その意味を今一度考える必要がある。少なくとも政府が権力を握り、国民を監視することではないはずである。

 (Y・M)