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少年審判手続での付添人の役割

中部経済新聞2013年9月掲載 
少年審判手続での付添人の役割

 私が当番付添人として鑑別所に駆けつけて面会したのがA君との出会いだった。A君が鑑別所に入るのは2回目、前回は友人らとバイクを盗むも保護観察処分となったが、保護観察中に万引きをしてしまい再度鑑別所に入ることとなった。

 A君はいわゆるヤンキー風の見た目だが、礼儀正しく挨拶し、丁寧な受け答えをする。しかし反省の弁はどこか口先だけで言っている感が否めない。

 これまでの経験上、非行が進んだ少年の中には、大人の顔色を窺い、どう対応すれば大人から良く見られるのか、反省していると思われ許してもらえるのかを計算して、その場をやり過ごそうとする子もいる。A君も、自分の問題性について、まだじっくり考えることはできていないように思えた。

 正式にA君の付添人として活動することとなった私は、A君から「僕、少年院ですよね。」と質問された。A君に限らず多くの少年はどうしても処分が気になる。

 こんな時私は「どのような処分にするのかは裁判官が決めることだから分からない。でも、これから君が何を考えて、どう過ごしていくのかが重要で、裁判官もその様子を見て処分を判断するんだよ。君次第で保護観察や試験観察になることもある。これから一緒に考えていこう。」と答えるようにしている。

 決して気休めでそう言っているのではない。少年法は非行に対して刑罰を科すのではなく、まだ若く矯正可能な少年を保護することを目的としている。どのような処分とするのかは保護を要する程度によるのだが、これは「非行時」ではなく、「審判時」における少年について判断される。非行事実の内容だけみれば、少年院送致が相当かと思われる事案でも、鑑別所内の生活で少年に著しい成長がみられ保護観察や試験観察となることがあるからだ。

 A君に保護観察中なのに何で万引きをしたのか理由を尋ねるも、自分でも何でやってしまったのか分からないと言う。自分の行動や気持ちを分析するのは簡単なことではないが、二度と非行をしないために原因を解消する必要があるし、一生懸命考えるプロセスも重要である。こちらが一方的に分析して回答を与えては意味がない。私は、何度も面会を重ね、「そのときはどういう気持ちだったの。」「なんでそうしたんだと思う。」という質問を繰り返し、A君自身に考えてもらうよう働きかけた。

 その結果、A君から前の職場で暴力の被害に遭い、辞めた後も追われて怯えていたこと、一人暮らしをするもお金がなくなり電気を止められ自暴自棄になったことなどが語られた。A君の非行は両親が離婚した頃から始まっていたのだが、幼い頃から今までどんな出来事があったのか、その時々のA君の感情などを聞き取っていくとA君は自然と自分がどんな道を歩んできたのか見つめ直し、日に日に反省は深まっていった。

 調査官にも恵まれた。A君の話を良く聞いてくれて的確なアドバイスを頂くことができた。母親はA君とじっくり向き合い今後のことを話し合い、実家に帰って一からやり直すことになった。A君の顔が中学生の野球を一生懸命やっていたときの顔に戻ったと母親は喜んでいた。新しい職場も用意できた。

 私は、今のA君なら少年院に行かずとも社会内で更生することは可能であると確信した。少年は可塑性に富み、付添人を含め周囲の大人の関わり方によっては短期間でも著しい成長をする。私が付添人の活動にやりがいを感じる理由だ。

 そこで,私は裁判所に対し試験観察が相当だという意見を提出した。試験観察とは鑑別所を出た後の少年の様子を一定期間見てから最終的な判断をするという中間的な処分である。つまりA君にもう一度チャンスを与えてもらいたいという意見である。調査官も同じ意見をもってくれた。

 審判の結果は少年院送致。

 A君がやり直そうと努力していることは裁判官には伝わったものの、それでも少年院での教育が必要であると裁判官は判断したのである。処分結果を聞いたA君は泣き崩れ、「起立!」「礼!」の号令がかかるも立ち上がることができずその場でうずくまっていた。

 少年院に行くにしてもA君が納得して処分を受け入れなければ教育効果が半減する。翌日、審判の不服申立をするかどうか、鑑別所に面会に行こうとするもA君は既に少年院に送致されていた。その日の午後に少年院までA君に会いに行った。既に坊主になっていたA君は予想外にすっきりした顔をしている。「不服申立する?君はどうしたいかな。」と尋ねるとA君は「ありがとうございました。不服申立はしません。ここで頑張ってみようと思います。」と答えた。

 ああ、A君はもう大丈夫。

 「坊主似合うじゃん。」と私が言うと「元野球部ですから。」と答えるA君の笑顔が今でも目に焼き付いている。


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 付添人は、少年審判手続において、非行事実の認定や保護処分の必要性の判断が適正に行われるよう、少年側の立場から手続に関与し、事案に応じて非行事実を争い、または少年の内省を促したり少年を取り巻く環境の整備を行うなどして少年の立ち直りを支援します。愛知県弁護士会では、少年や家族の要請に応じ、弁護士が無料で一回、当番付添人として少年の面会に行く活動をしています。

(お問い合わせ先愛知県弁護士会052(203)1651)