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【言わせてチョ】経済活況化と原発再稼働

中部経済新聞2013年5月掲載 
【言わせてチョ】経済活況化と原発再稼働

経済の活況化と原発再稼働

 ここ最近、久方ぶりに株式市場が活況化し賑わいが続いている。このことを、毎日の報道が興奮気味に伝え、業績見通しの上方修正を行う大手企業も相次いでいる。経済界は現政権政党の経済政策をこぞって好意的に評価しているように映る。年金制度や医療制度など社会システムの先行きも危うく、従来的な資本至上主義の限界を多くの人が感じつつ停滞していたこの社会。奇しくも東日本大震災からも2年が経過しようとしていたその時期とも重なった。一般投資家にも、またバブルの再来があるかのような期待感を抱かせるのか、証券会社に訪れる顧客は現在も増加傾向にあるという。確かに健全な経済発展がこの社会に必要であることは否定しない。

 しかし、「基本的人権の擁護」という弁護士の本分を考えるとき、どうにも今の社会の流れに違和感を覚えずにはいられない。なぜなら、どんなに一部の経済界が活況化しても、現に福島原発事故で被災した人々の生存権・財産権は今なお侵害され続けているし、この国の「原発問題」については、何ら楽観的な見通しが立っているとはとても思えないからである。

 むしろ、現政権が、この金融緩和政策にまるで歩調を合わせるかのように、「安全神話」ならぬ「安全文化」を改めて創るとし、原発再稼働の方針を打ち出したことには、強い警戒心を抱いてしまう。

 日本弁護士連合会は、従前から脱原発について提言をしてきがが、福島原発事故後も改めて、明確に脱原発に向けての道筋を提言してきた。また、福島の現状を見れば、原発というものが、一時の経済効果では到底補填できない壊滅的被害と永続的な人権侵害をもたらすことは、多くの人も既に知るところである。現に政権交代の4か月前の国内世論調査でも、脱原発に賛成する人が約70%と絶対多数を超えていた。それにもかかわらず、新政権の指針からは、ほぼ何の議論も経ず、「脱原発」の文字が消えてしまったのである。

 もちろん、世論を気にする政治家たちが、今の段階で、先の世論調査の結果を真っ向から無視するような行動に出るとは考えにくい。しかし、彼らは私たち国民が、時間と忍耐を要する議論をあまり得意としないことや、辛いことや難しいことは後回し、人任せにして、その記憶も時の経過と共に薄らいでいくということをよく知っている。

 今すぐ手に入る目の前の利益に目を奪われている間に、気が遠くなる程将来に亘って負の遺産を背負うことになるかもしれない。そんな岐路に立たされているということを、私たちは今一度再認識する必要があると思う。

 そして、この問題については、この国の司法判断にも着目していきたい。先頃、福島原発事故後、初めての原発関連の司法判断となる、関西電力大飯原発運転差し止め仮処分の判断が大阪地方裁判所で出された。結果は再稼働差し止めを求める住民側の申立て却下。この国の司法は、福島原発事故の経験を経てもなお、「原発の安全性」を是認する判断を下したのである。住民側からは、即時抗告がなされ、今後高裁の判断が注目される。民主主義の機能不全や、多数決を楯に時に過ちを犯す政治を是正するのが「人権保障の最後の砦(とりで)」といわれる司法権の使命である。司法権には今こそ一歩踏み込んだ、責任ある判断を期待したい。

MT