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【ちょっとお得】 越境している隣家の樹木の枝

中部経済新聞2013年2月掲載
【ちょっとお得】 越境している隣家の樹木の枝

【質問】

隣家の庭木の枝が私方の敷地に入ってきており、邪魔に思っています。枝を切ってしまってもよいものでしょうか。

【回答】

  1.  樹木の枝が越境している場合について、民法は、樹木の所有者に、その枝を切除させることができると定めています。民法がこのように定めているのは、枝を切ると樹木が枯れてしまうこともあるので、樹木の所有者に、枝を切るのか、植え替えをするのかを選択する機会を与えるためだとされています。
     したがって、ご質問にあるように、樹木の所有者の承諾なく、あなた自身が枝を切ってしまうことはできませんが、樹木の所有者に、枝を切るよう申し入れることができます。
  2.  ただし、樹木の枝が越境していれば、どのような場合であっても、樹木の所有者に枝を切除させることができるという訳ではありません。①枝の越境によって何も被害が生じていないか、被害がわずかである場合や、②枝の切除によって被害者が回復する利益がわずかであるのに対して、樹木の所有者が受ける損害が不当に大きすぎる場合には、枝の切除を請求することは権利の濫用にあたり、認められないとする裁判例があります。ですから、枝の越境による被害の状況などによっては、樹木の所有者に枝を切除させることができないということもあり得ます。
  3.  なお、ご質問からは離れますが、樹木の根が越境している場合については、民法は、その根を切り取ることができると定めています。したがって、枝が越境している場合とは違い、根が越境している場合には、樹木の所有者の承諾なく根を切ってしまうことができます。
  4.  しかしながら、枝の越境について申し上げたのと同じように、根の越境による被害の状況などによっては、根を切ってしまうことが権利の濫用にあたり、認められないということがあり得ます。根を切ってしまうことが認められない場合に、根を切って樹木を枯らしてしまうと、損害賠償責任を負うことにもなりかねません。
  5.  どのような場合であれば樹木の所有者に枝を切除させることができるか、あるいは、根を切り取ってしまうことができるか、事例ごとの判断については、弁護士にご相談下さい。