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投票の価値の平等

中部経済新聞2012年12月掲載
投票の価値の平等

【質問】

 昨日投票が行われた衆議院議員選挙について、「違憲状態」という話を聞きますが、「違憲状態」とはどういう意味ですか。

【回答】

 日本国憲法は、国民が法の下に平等であることを定めており(14条)、選挙権についても平等である必要があります(44条但書等)。そして、ここでいう「選挙権の平等」は、単に一人一票であればよいというわけではなく、各投票が選挙の結果に及ぼす影響力においても平等であること(投票の価値の平等)も必要であると考えられています。例えば、有権者100人に対して議員1人が当選する選挙区と、有権者一万人に対して議員1人が当選する選挙区とでは、有権者1人の投票が議員1人の当選に対して及ぼす影響力に100倍もの差があり、選挙権の平等が達成されているとは言えません。

 平成21年8月30日に施行された衆議院議員選挙の選挙区割りについては、選挙日時点において、選挙区間の選挙人数の最大格差が1:2.304となっていました。このような選挙区割りについて、最高裁は、憲法の投票の価値の平等の要求に反する状態に至っていたと判断しました(平成23年3月23日判決)。これがいわゆる「違憲状態」という意味です。

 もっとも、選挙区割りを変更するには一定の時間がかかることから、最高裁は、前回の選挙について直ちに違憲無効の判断は下しておらず、その次の選挙までに是正されることが期待されていました。

 しかしながら、昨日の選挙は、選挙区割りの違憲状態が是正されることなく実施されました。衆議院が解散する直前に選挙区割りの違憲状態を是正するための法律が成立したものの、その法律は、区割りをする際の基準について定めるのみで、具体的な選挙区割りは別の法律に委ねられています。その法律がまだ成立していないためです。

 昨日の選挙に関しても選挙無効訴訟が提起されることが予想されます。その際に、最高裁が合憲性についてどのような判断を下すか注目されるところですが、国会議員を含む公務員は憲法を尊重し擁護する義務を負っており(99条)、違憲状態を是正した上での選挙が望ましかったのではないかと思われます。