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中部経済新聞2012年11月掲載
会社の民事再生とは
中部経済新聞2012年11月掲載
会社の民事再生とは
会社の主要な法的倒産手続には、破産と民事再生があります。
破産は、会社の財産を全てお金に換えて債権者に公平に配当する(会社は解散)、清算型の手続です。
一方、民事再生は、清算を目的とはせず、会社の再建に主眼をおく再建型の手続です(会社は継続)。
会社経営が傾いた場合、経営者は、破産ではなく、民事再生による事業の再建・継続を望むことが多いです。
しかし、民事再生を申立てさえすれば必ず会社を再建できる訳ではありません。民事再生は、債権者に大きな犠牲を強いる手続です。メインバンク等の大口債権者から理解を得られなければ、再生計画は否決されます。
また、法的倒産手続である民事再生の申立ては、会社の信用不安を表面化させます。申立て後も、従業員や取引先をつなぎ止めておけなければ、およそ事業は継続できません。
民事再生手続が頓挫した場合、手続は破産に移行します(文末図表参照)。民事再生は、再建可能性がある会社について、事業の継続を可能とさせるための手続なのです。
そして、会社の再建可能性には、経営者が再建のためにどれだけ努力できるかが大きく関わってきます。
以下では、民事再生を成功させるため、経営者が注意すべき点を見ていきます。
1 手続の概要
民事再生を申し立てると、弁済禁止の保全命令が発令され、手続開始前の債務の弁済を棚上げした状態で再生計画案を作成できます(手形不渡りも回避できます。)。債権者は、再生債権の届出をした上で、再生計画の定めによってしか、弁済を受けられなくなります。
民事再生の申立後、経営者は、引き続き事業を継続しながら、自主的に再生計画(従来の債権について、何割をいつまでに返済するか等を定めた計画)案を作成し、裁判所に提出します。
裁判所に提出した再生計画案は、債権者集会での可決及び裁判所の認可を経て、再生計画として確定します。確定により、手続開始前の債務は再生計画の内容通りに変更(=大幅な減額)されます。
2 公平誠実義務
民事再生では、開始決定後も経営陣は引き続き業務を遂行し、会社財産の管理や処分をすることができますが、特定の債権者にだけ有利になるようなことはできません。債権者に対して公平かつ誠実に行使すべき義務を負います(公平誠実義務)。また、監督委員や裁判所の監督を受け、重大な違反があれば財産管理処分権が剥奪され管財人が選任されることもありえます。
民事再生の目的は、債権者との権利関係を適切に調整して「事業」を再生させる点にあり、経営者を救う制度ではないことを理解した上で、申立を行う必要があります。
3 弁済率について
民事再生では、再生計画に基づいた弁済率に従って、債権者への弁済を行います。
そこでの弁済率は、「会社を破産させた場合」の配当率を上回る必要があります(清算価値保証原則)。「債権者にとって民事再生より破産の方が得な場合」は、再生債権者一般の利益に反するとして、再生計画案は認可されません。そのため、再生計画案の作成にあたっては、会社の資産を全て売却した場合の価値(清算価値)を正確に算出することが求められています。
4 債権者の同意
再生計画案は、債権者集会で可決されることが必要です。
再生計画案が可決されるためには、①債権者の頭数と②債権額の両方において、過半数の賛成を得ることが必要です。
再生計画案で清算価値を上回る弁済率を示したとしても、必ずしも再生計画が可決されるとは限りません。
例えば、民事再生申立後の営業による収益で、再生債権の長期分割弁済を行う場合、事業計画の見通しが甘く、再生計画の実現可能性に疑問があれば、債権者からの賛成は得られないでしょう。あるいは、民事再生で長期分割弁済を受けるより、配当率は下がっても、破産配当で一度にまとまった金額を受領した方が良いと考える債権者もいるでしょう。
債権者集会で再生計画案が可決されるためには、債権者に対する説明(債権者説明会の開催等)が重要です。
債権者の理解と協力を得るため、手続開始の直後から債権者説明会を開催し、業務や財産に関する情報を開示した上で、申立後の法的手続等について説明するのが通常です。債権者説明会の他にも、説明書面の送付等適宜の方法で積極的な情報開示を行うべきでしょう。