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自筆遺言証書の作り方

中部経済新聞2012年10月掲載
自筆遺言証書の作り方

社長 ちょっと、見てもらいたい書類があるんだが。
弁護士 どうされましたか。
社長 いや、俺も歳をとったし、大きな地震が近いかも知れないし、先々のことを考えて遺言を書いたんだ。いろいろ本で勉強して作ったから問題ないと思うけど、念のため確認してもらおうと思ってね。
弁護士 以前ご相談いただいた時に、公正証書遺言をお勧めしたはずですが。
社長 公正証書だとお金がかかるし、証人が二人必要だろう?あまり他人に知られたくないんだよ。

全文自筆が必要

弁護士 では、拝見します。
うーん、社長、自筆証書遺言としてこれは無効ですよ。
社長 えーっ。あんなに勉強して書いたのに。何がいけないんだい。
弁護士 まず、自筆証書遺言は文字通り「自筆」が要件ですから、中身はパソコンで作った文書で、最後の署名欄だけ自筆では、自筆証書遺言として有効にはなりません。
社長 そうか、じゃあ早速全部自分で書いてくるよ。
弁護士 あーあ、帰ってしまった・・。
他にも直すべき点があるのに。あの社長はいつもながらせっかちだなぁ。

(数日後)

作成日は正確に

社長 おーい。全部自分で書いたよ。これなら問題ないだろう。
弁護士 先回帰られてしまったのでお伝えできなかった点を言います。遺言を作成した日付が「平成24年10月吉日」と書いてありますが、これでは「日付」が記載されたことにならないという裁判例があるので、やはり無効です。
社長 そうなのか。じゃあ「10月末日」っていう書き方も無効なのかい。
弁護士 いえ、それは10月31日という特定の日であることが誰にでもわかりますので有効と判断されています。
社長 ふーん。ところで、今遺言を作ったことを家族に知られたくない場合に、数年後の日付で作ることは問題ないのかな。
弁護士 お勧めできません。失礼な話で恐縮ですが、1か月後に社長が交通事故などで通常の判断能力を失ったとします。遺言に記載された数年後の日にも判断能力が戻っていなかったら、遺言を作ることは不可能です。そうすると虚偽の「日付」を記載したことが明らかなので、無効とされる危険が大きいです。
社長 確かに気をつけていても避けられない事故はあるね。
弁護士 事故に遭わなくても、何かの都合で引っ越すケースが考えられます。自筆証書遺言には、日頃の癖なのか、住所も記載される方が少なくありません。記載された日付より前に今の住所から引っ越してしまっていると、住所か日付のどちらかが虚偽の記載ということになって、やはり無効と判断される危険が大きくなります。
社長 面倒だなぁ。でも、正直に作った日を書いておく方が良いね。
弁護士 そうですね。

修正は全部書き直すべし

社長 ところで、今後、気が変わって遺言を直したいときは抹消線でも引いて書き直せばいいのかな。
弁護士 いえ。修正するには、修正場所を示して変更した旨を付記して特にその部分に署名して、かつ変更部分に押印しないと、修正が効力を生じません。
社長 それも面倒だね。
弁護士 ですから、修正するなら、面倒でも全部最初から書き直すことをお勧めします。
社長 そうするよ。

保管は死後見つかりやすい場所で

弁護士 ところで、遺言を作った後、どうやって保管しておかれる予定ですか。
社長 家の仏壇のどこかに入れておこうかと思っているが。
弁護士 誰かに遺言を作ったことや保管場所を伝えておくのですか。
社長 その予定はないよ。
弁護士 それですと、せっかく作った遺言を発見してもらえない危険があります。たとえば、我々弁護士でもいいですが、相続に利害関係のない公正な第三者に預けておくか、発見されやすいように金庫など大切な物を保管する場所に入れておかれることをお勧めします。
社長 そうか、見つけてもらえないと意味がないね。
弁護士 その他、作成された遺言は封筒に入れて「遺言書在中」などと表に記載しておかれるといいですよ。
社長 なるほど。
弁護士 合わせて封筒には、「開けないで家庭裁判所に提出して欲しい」と書いておくと、より親切ですね。自筆証書遺言は家庭裁判所の検認手続を経ないといけませんから。
社長 うーん、残された妻子に面倒な手間をかけさせたくないし、やっぱり遺言は公正証書にしようかな(笑)。