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中部経済新聞2012年5月掲載 メンタルヘルスケア対策

社長 ふ~。「5月病」って言葉があるけど、本当にそんな病気があるんだろうか。
弁護士 どうしたんですか、ため息ついて。社長が5月病ですか。
社長 違うよ。いや、従業員が5月病で休みたいなんて言うんでね。
弁護士 確かに最近は、うつ病などメンタル(精神)面の病気で休業する人がいると聞きますね。そのため、従業員のメンタル面の健康状態、これをメンタルヘルスといいますが、このメンタルヘルスケア対策を積極的にとる会社も出てきています。
社長 どうして、会社が従業員のメンタル面まで管理しなければならないの?
弁護士 会社は、従業員の身体や生命の安全や健康に配慮する義務を負っています。そのため、従業員のメンタル面の健康も確保・管理しなければならないわけです。
社長 具体的にはどのように管理するわけ。
弁護士 まず、労働安全衛生法に基づいて、従業員の健康診断を実施する必要があります。それから、会社の規模や業種に応じて、安全衛生管理体制を整備する必要があります。具体的には、安全管理者や産業医などのスタッフを整備しなければなりません。
それから、言うまでもありませんが、労働時間の管理が大切です。長時間労働が原因でうつ病などの病気を発症することもありますからね。労働基準法では、原則として、1日8時間、1週間40時間という法定労働時間が定められていますから、覚えておいて下さい。
社長 従業員がメンタル面の不調を訴えて遅刻や欠勤を繰り返すときはどうしたらよいの。
弁護士 本当にメンタル面の不調が原因であれば、無理に出勤させるわけにはいきませんので、体調が悪化しないように、可能な範囲で、配置転換や仕事の軽減を検討することになります。本人の意向や産業医など医師の意見を参考にして、現状の仕事の継続が可能かどうか、仕事量を減らすことで対応できるかどうか、などを考えます。
社長 職場を換えたり仕事量を減らしたりしても不調が続く場合は、解雇していいのかい。
弁護士 まずは、休職させることを検討しましょう。この場合も本人の意向や医師の意見を考慮して下さい。
その上で、必要に応じて解雇を検討することになりますが、メンタル面の不調が仕事に起因する場合には、解雇権の濫用として、解雇が認められない場合もありますので、慎重に対応する必要があります。また、メンタル面の不調が仕事に起因する場合は、休業期間中はもちろん、その後30日間は解雇できませんので、注意が必要です。
社長 仕事が原因でメンタル面の不調になった場合には、安易にそのことを理由に解雇できないわけだね。
でも、人はそれぞれ色々な悩みを抱えているよね。内面のことだから、何が原因で不調になったか、わかりにくくないかな。
弁護士 確かに、難しいと思います。そのため、最近、厚労省は、労災認定に関して、「心理的負荷(注:ストレス)による精神障害の労災認定基準」を定めました。これによると、精神障害(メンタル面での疾病)が業務(仕事)上の疾病と認められる要件としては、発病前おおむね6ヶ月の間に業務による強い心理的負荷が認められ、業務以外の心理的負荷や個体側要因(注:当該労働者固有の事情)により発病したとは認められないことが必要とされています。
社長 具体的には、どのような基準で、「業務による心理的負荷」があったと判断するのかい。
弁護士 先ほどの厚労省の基準では、例えば、病気や怪我、悲惨な事故の目撃、仕事上の失敗や負担、仕事の量(時間)や質、地位の変化、対人関係、セクシュアルハラスメントなどの仕事上の出来事があったときに、その出来事の内容に応じて、心理的負荷があったかどうか、あったとしてその程度はどうか、を判断するように一定の基準を設けています。例えば、会社の経営に影響するような重大なミスをして事後対応にもあたった場合には、強い心理的負荷が認められやすいとされています。
ただ、厚労省の基準は参考にはなりますが、個別具体的に総合考慮して判断する必要がありますので、必要に応じてご相談下さい。
社長 もし、仕事が原因でメンタル面の病気になり、仕事ができなくなってしまうなどしたら、会社はどんな責任を負うのかい。
弁護士 場合によって、会社は慰謝料などの損害賠償責任を負うことになります。従業員がパワハラによりうつ病になって自殺に追い込まれた事案で使用者に損害賠償責任が認められる判例も出ています。
社長 なるほど。従業員には会社を支えてもらっているわけだから、メンタル面にも配慮が必要だということだね。