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外国人留学生に対する無罪判決

刑事弁護人日記(83)
外国人留学生に対する無罪判決

会報「SOPHIA」 平成30年 2月号より

会員  富 田 紘 矢

1 事案の概要

 本件は、元職場の送別会にて、21歳の外国人留学生である被告人(X)がカラオケ店の女子トイレの個室に侵入し、元同僚の女性(A)に対し下半身を押し付けたとして、強制わいせつ罪等で起訴された事案です。警察への被害申告が事件から4日後であったため、防犯カメラの映像やDNA等の付着の有無は確認できず、Aの供述以外に有力な証拠は存在しませんでした。

2 被疑者段階

 初回接見で、Xは酩酊のため女子トイレだと気づかなかった、わいせつ行為は一切行っていないと述べていました。
 現場に赴いたところ、当該女子トイレはその色、マークの配置、男子トイレとの位置関係が特殊であり、誤信がありえる構造でした(①)。また、関係者から、Aが深く酩酊していたこと、Aの言動が被害直後にしては不自然であったことを確認しました(②)。
 他方、Xはトイレを間違え、Aに局部を見られたことは認めていたため、迷惑料の名目での金銭の支払いと被害届の取下げをAに申し入れましたが、応じてもらえず、Xは起訴されました。

3 目撃者証言

 Aにトイレ内から電話で呼び出され、XとAがトイレから出てくるところを目撃した上司(W)が証人申請されました。しかし、期日直前にWと接触することができ、有利な証言を得られる感触を得ました。そこで、反対尋問はあえてオープンクエスチョンで行い、現場が異なる個室である可能性やAの言動が不自然であること等について証言を得ることができました。その結果、Wの尋問終了直後、破格と言っていいほど低い金額で保釈が認められました。

4 在留資格更新

 起訴後、Xの通う学校に①~③を中心とした報告書を提出したところ、学校側もXの無実を信じ、Xの在留資格更新等に尽力してくださいました。その結果、保釈請求前に在留資格を更新することができました。

5 被害者証人尋問

 開示証拠に従い、何度も犯行を再現し、Aの供述の不自然な点、再現写真と供述が矛盾する点、Wやその他の関係者の供述と矛盾する点を洗い出しました(③)。反対尋問はその点を中心に指摘する予定でしたが、法廷ではAの証言が捜査段階からさらに変遷したため(④)、それにあわせ尋問内容を変更しました。

6 被告人質問

 Xの検察庁での弁解録取の際の録音録画媒体を確認したところ、彼の弁解が正しく伝わっていませんでした。彼の言い分から、逮捕直後ではもっと不正確な通訳がされていた疑いもありました。そのため、被告人質問では、学校関係者及び当職が依頼した通訳人に傍聴してもらいました。後日、被告人質問の録音媒体を裁判所に交付してもらい、内容を確認し、Xの弁解が不合理にとられかねない点につき、訳の違いについて意見書を提出しました。

7 判決

 判決では、①~④を理由にA供述の信用性が否定され、無罪が言い渡されました。
 振り返れば、Aの証人尋問終了後に、裁判所も無罪の心証を得たのではないかと思います。
 また、要通訳事件では細かいニュアンスが生命線であり、とりわけ通訳人との連携に注意を払う必要があると実感しました。