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ウガンダ女性に対する7月判決(名古屋高裁民事3部)
会報「SOPHIA」 平成28年12月号より
人権擁護委員会 国際人権部会 部会員 川 口 直 也
1 7月28日に名古屋高裁民事3部で控訴を認容して、ウガンダ共和国の女性を難民と認定して、難民不認定処分等を取り消す判決がありましたので、ご報告いたします。
2 事案の概要
女性は、本国で短大を卒業後、ウガンダ人男性と婚姻し3児をもうけました。2001年、本国で、野党であるFDCが公式に結成される前から支持し、翌年同団体の覆面組織ともいえるWWIに職員として勤務して女性の社会進出を促進する活動を行い、またFDCの政策等の理解を促進する活動にも従事しました。その後、FDCが合法化され、正式に党員となりました。
2005年頃からはWWIの代表代行も務め、ラジオ番組の野外討論会でFDCの政策等について発言したり、2006年の大統領・国会議員選挙では動員役員として選挙運動に関わり、投票の呼びかけやポスター貼りの活動を行いました。地方当局からの、活動を辞めるよう警告する手紙を二度受けました。
その後、複数の男性から襲撃を受け、身体的な暴行を受けて気を失い病院へ搬送され、当時妊娠していた子どもを流産しました。
地方当局から活動を辞めるよう警告する三度目の手紙を受け取り、女性は身の危険を感じて隣国に一時出国し、2008年7月に、会社の海外出張の際に来日しました。来日後、2009年11月に難民申請しました。その後、在日ウガンダ人団体に加入し、2015年の大統領来日時には、デモ行進をするなど本邦でも政治活動を続けました。
3 一審において、女性が難民と認定されなかった理由は、①裏付け証拠がない、②その時々の供述に食い違いがあり信用できない、③「迫害の対象として関心を抱かせるような指導的な立場」にない、といった理由でした。
一審がそのような判断に至った理由には、出身国の状況への理解が足りなかったことがあったと考えています。
4 控訴審では、①出身国情報に対する十分な判断がなされていない、ウガンダでは個別に注視されている者だけではなく党員一般に対して迫害が行われている、②迫害の対象として関心を抱かせるような、指導的立場にあったことは、難民条約の要件ではない、③難民申請者は困難な状況にあるから中核事実の一貫性をもって供述の信用性を判断すべきであり、枝葉の供述の整合性を論難してはならない、といった内容を主張しました。
5 高裁判決は、①ウガンダの出身国情報、特にFDC党員に対する当局の対応について、複数年度の米国国務省報告や、ヒューマン・ライツ・ウォッチ等の報告書を引用し、ウガンダ政府が、野党であるFDCの役職者や、指導的立場にある者のみならず、集会や抗議活動に参加する一般の党員や支持者に対して、発砲、催涙ガスの発射、暴行、逮捕・拘留、集会の阻止等の行為を繰り返して、FDCの指導的立場にはない一般の党員にも迫害を受ける恐れがあると認定し、②「迫害の対象として関心を抱かせるような指導的な立場」にあることは難民の要件ではないし、③供述の信用性について、中核的事実についての供述が、具体的で一貫していること、出身国情報とも整合していること、一方では事実の一部について客観的裏付けがないことは難民の性質上やむを得ないとして、女性の供述に基づいた事実を認定しました。また、供述の変遷についても母国語ではない英語において長時間にわたる聴取がされた結果、聞き間違いや言い間違いが生じ、不正確な内容が混入することは十分にあり得る、と中核部分の一貫した供述を重視しています。
6 9月、女性は、難民認定を受けました。
来日後8年、訴訟提起後5年を経た安息です。