愛知県弁護士会トップページ> 愛知県弁護士会とは > ライブラリー > 日本国憲法施行70周年記念行事
憲法の未来-9条『改定』問題を中心に-

日本国憲法施行70周年記念行事
憲法の未来-9条『改定』問題を中心に-

会報「SOPHIA」 平成29年9月号より

憲法問題委員会 委員 岩 月 浩 二

 9月16日、伏見の鯱城ホールで、首都大学東京の木村草太教授を講師に標記行事が開催された。テレビでおなじみの気鋭の憲法学者の講演に市民ら約500名が熱心に聞き入った。
 巧みなユーモアも交えながらの講演が80分、当会の川口創会員との対談が60分。ともに充実した内容で、あっという間に時間が過ぎた。

1 立憲主義 憲法は張り紙

 木村氏は、立憲主義を「廊下は走ってはいけない」等の張り紙になぞらえて説明した。張り紙には過去の失敗に対する戒めが書かれている。張り紙と同様に過去に国家権力が犯した失敗の禁止を憲法に書き込んで権力を規制するのが立憲主義である。
 国家権力の三大失敗は、「戦争」、「人権侵害」と「独裁」であり、これに対応して、①軍隊と戦争のコントロール、②人権保障、③権力分立の原則が定められている。日本国憲法だけでなく諸国においても近代的立憲主義の憲法にはこのような原則が定められている。

2 9条改憲について

 9条は原則として、武力行使を禁止している。国際社会も、国際連盟(1919)から不戦条約(1928)を経て国連憲章(1945)で武力不行使原則を確立した。憲法9条の武力不行使原則は、世界各国もコミットした普遍的なものである。改憲論として浮上した、9条1項、2項を存置したまま、自衛隊の存在を明記するという9条改憲案は、その意味が明確ではない。戦力は持ってはいけないと禁止したのに、自衛隊を明記するというのはそれだけでは、意味がわからない。明確にするのであれば、①個別的自衛権に限って認める、②集団的自衛権も認める、のどちらかになるが、①であれば、2015年の安保法が違憲となるし、②であれば、これが否決されると安保法自体が否定されたことになり、与党に得なことがない筈。曖昧にするのが与党の戦略であろう。
 憲法改正国民投票法は、抱き合わせ投票を禁止しているのだから、個別的自衛権の承認と、集団的自衛権の承認は、別の論点として論点ごとの国民投票を要すると解すべきである。

3 対談

 後半は、休憩時間中に会場から回収された質問用紙に基づき、川口会員が木村氏に質問する形式で進行した。対談の中で、木村氏が特に強調していたのは、改憲の論点を明確にする必要であった。改憲論議を回避するのではなく、自衛隊を明記することの意味を、個別的自衛権のことなのか、集団的自衛権を含むのか、突き詰めるために正面から議論する必要を重ねて説いていた。
 単に自衛隊を明記するという曖昧な改憲を許してはならず、場合によっては、「日本に対する武力攻撃の着手があった場合に攻撃することを妨げない」等の自衛隊を統制する改憲案を提示してでも論点を明確にさせて、抱き合わせ投票を許してはならないと強調された。
 木村氏は、最後に敢えて「憲法は、大きな理念を構成するパーツの一つというということを踏まえて憲法改正問題に臨むべきである」と付け加えられた。前半の講演でも、「9条改正の議論は、国際公共価値に資する観点から日本は何をなすべきかを議論すべき」とし、日本にとって得か損かという議論は不毛だと強調していたのと合わせ、木村氏の憲法に対する思いを窺わせた。
 休憩時間中に回収された質問用紙は軽く40枚を数えた。9条改正に対する市民の危機感を示していた。