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手を取り合って子育てを ~原武之会員~

連載 弁護士とプロボノ活動(6)
手を取り合って子育てを ~原武之会員~

会報「SOPHIA」令和3年10月号より

会報編集委員会

 弁護士とプロボノ活動の第6回は、NPO法人はんどいんはんどの共同代表をされている原武之会員(56期)に、病児保育等の具体的な支援活動等や取組を始めたきっかけ等について幅広くお話をうかがいました。

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-NPO法人はんどいんはんど(以下「はんどいんはんど」)の活動内容を教えて下さい。

 はんどいんはんどは、愛知県岩倉市に託児型病児保育を中心として、施設型の病後病児保育と家庭訪問型の子育て支援等の子育てに関わる活動をしています。私は、代表理事という立場で、共同代表の廣中大雄とともに、団体の運営をしています。5年前にNPO法人の設立認証を受け、現在6期目となります。

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(スタッフの方々と。後列右端が廣中さん)

-発熱等で子どもを保育園等へ預けられず、仕事に支障を来すという病児保育の問題が社会的にも認識されつつありますが、病児保育の分野に関心を持ったきっかけを教えてもらえますか。

 私は、2003年に弁護士になってから3年間、東京の渉外事務所に在籍していました。その間に、妻が妊娠し、共働きでどのように子育てしていくべきか悩みを抱えていました。

 そのような悩みを抱えていた2006年に、NPO法人フローレンス(以下「フローレンス」)の代表者である駒崎弘樹さんの病児保育事業の活動をテレビ番組で知って、大変感銘を受けました。

 すぐに駒崎さんに連絡を取ったところ、事務所に遊びに来るようにと誘われ、いつのまにかボランティアとして携わるようになったことが(病児保育の分野に関わり始めた)きっかけです。私が名古屋に移ってからも、最初はプロフェッショナルボランティア(略してプロボラ)として、その後は監事という立場で、規程作りを手伝うなど、フローレンスの運営に関与しました。

 今は、名誉ボランティア(?)という立場ですが、現在も交流があります。

-フローレンスでの活動が今につながるわけですね。印象に残っていることはありますか。

 公民館で病児保育の説明会を開催した際に、地方から出てきて働きながら子育てをしている参加者の母親みんなが、フローレンスの活動の説明を聞き、泣き出したことがありました。一人孤独に子育てなどに奮闘している中、手をさしのべてくれる存在に初めて出会った、ということでした。病児保育の団体が社会に必要とされていることを実感しました。

-はんどいんはんどを設立することになった経緯を教えてもらえますか。

 妻の妊娠出産を契機として、妻の地元である名古屋で弁護士業務をすることになりましたが、フローレンスのような活動を愛知県にも広げたいという思いがありました。駒崎さんも、ぜひやってほしい、協力は惜しまない、ということでした。

 最初は、私一人で、病児保育の団体を作ろうと思っていて、知り合いに声をかけるなどしていましたが、何もないところから作り上げるのは想像以上に大変でした。

 他方で、社会問題などについて勉強する地方議会議員の会合に参加していたところ、参加者の中に、父親が複数の幼稚園や保育園の運営をしている社会福祉法人の代表者である廣中がいて、意気投合しました。

 廣中に保育スタッフの研修をお願いしてもらっていたところ、大変な状況を見かねて、一緒にやりましょうと言ってくれて、廣中が運営するこどものまち保育園内に事務所を開設する形で、共同ではんどいんはんどを設立しました。

-病児保育の事業を始めるまでは、大変ではなかったですか。

 一番大変だったのは、活動の趣旨を理解し、病児保育を手伝ってくれる保育スタッフを集めることでした。

 待機料や日当等は支払うのですが、毎日依頼があるわけではないため、事実上、ボランティアのようなものとなりますので、協力してくれる保育スタッフはすぐには集まりませんでした。

 知り合いに声をかけたり、岩倉市の広報誌に掲載してもらったり、1年ぐらい苦労して、ようやく3、4人保育スタッフを確保できました。ただ、苦労した分、とてもよいスタッフに恵まれたと思います。

 最初の運転資金も必要でしたが、私と廣中の持ち出しのほか、私の弁護士業務の依頼者で、援助してくれる方もいましたので何とかなりました。

-はんどいんはんどの訪問型病児保育の特徴・利用方法について教えて下さい。

 共済的な考え方で、会員登録していただいた利用者から、一定の会費をいただきます。その分、毎月1回目の利用は無料で、2回目以降は追加で費用をいただくという形をとっております。

 訪問型ですので、利用者の自宅を訪問して、マンツーマンで保育をすることになりますが、病児保育をする前に、1回は慣らし保育をします。お子さんに慣れることもありますが、自宅に何があるのか、触ってはいけないものがあったり、いろいろ注意するところもあります。

 申込は、前日の20時頃までにご連絡いただいて、翌日に訪問するのが原則ですが、当日の朝の連絡でも対応可能な場合はあります。

 また、状況によっては、スタッフがお子さんを病院に連れて行くこともあります。

-対象エリアや対象疾患はありますか。

 岩倉市のほか、北名古屋市の一部、名古屋市西区も対象エリアです。ある程度は柔軟に考えているものの、スタッフの移動等で限界はありますので、地域を絞っています。

 対象疾患については、特段の制限はなく、インフルエンザ等の感染症でも受け入れは可能です。

 ただ、現在、コロナ禍であることや、スタッフの人員と利用者とのバランスの点からも、新規の会員の受け入れはストップしている状況です。状況が落ち着いたら、保育スタッフの増員とあわせて、新規会員の募集を再開したいと考えています。

-訪問型病児保育以外に施設での保育はありますか。

 岩倉駅前の空き家を無償で借り受け、「病後児保育室てっぴールーム」として、病気の回復期でまだ集団保育を受けるのが難しいというお子さんのために、病後児保育もやっています。

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(病後児保育室てっぴールーム)

 この活動を始めたきっかけは、もともと私たちの病児保育の活動を理解してもらっている、岩倉市役所の方から声を掛けていただいたことです。

 病後児保育のほかに、自宅でのお預かりに抵抗がある方等に向けて、施設内に、病児保育室専用の部屋も設けました。

-病児保育のスタッフとして活動するために、資格を取ったり、研修を受けたりするのですか。

 病児保育スタッフは、現在5名いますが、保育士一人を除き、特に資格は持っていません。みなさん、病児保育の団体の研修を受けたり、フローレンスで訓練を受けるなどした上で、活動してもらっています。保育全般については、廣中が、保育施設を運営していますので、その協力も大きいです。

 また、岩倉市内の小児科クリニックや総合病院の小児科医と関係を築き、何かあった場合にすぐに相談したり、小児応急救護研修を受けさせてもらったりしています。

 スタッフの採用その他、病児保育のノウハウ全般については、フローレンスや大阪のNPO法人ノーベルという団体からも、情報をいただいているところです。

-事務はどのように行っていますか。

 運営に携わっているスタッフが、6、7名いて、毎月のミーティングで情報提供してもらったり、チラシの作成、ポスティング、イベントのお手伝い等、それぞれの得意分野に応じて、様々な協力をしてもらっています。広告会社の方で、広告の手伝いだけしてもらっているスタッフもいます。

-はんどいんはんどの収支はどのような状況ですか。

 保育スタッフに支払う人件費をはじめとする活動費に対して、保育事業によって得られる収入はわずかで、事業単体では全く採算が取れません。これは、はんどいんはんどだけではなく、他のほとんどの病児保育の団体でも同じではないかと思います。寄付や助成金で補填するか、他の事業の収益を回すしかありません。病院、診療所併設の病児保育でも、病児保育単体では赤字で、運営が大変だと聞いています。

 はんどいんはんどは、岩倉市に活動内容を理解していただき、助成金を受けることで、活動を継続できている状況です。

 病児保育を行う保育スタッフを除き、私を含めた運営側の報酬等はなく、ボランティアで活動を支えています。

-最近、はんどいんはんどで、「ホームスタート」という活動を開始されたようですが、どのような活動ですか。

 ホームスタート事業は、子育て経験のあるボランティアスタッフが子育ての悩みを抱えている家庭を訪問して、悩みを聞いてアドバイスしたり、一緒に育児をするなどのボランティア活動です。全国組織があり、各地域で行われています。

 この活動も、岩倉市からのお誘いがきっかけです。周りに相談する環境のない子育て世帯が増えている状況から、「子育てが孤育てにならない社会を」というはんどいんはんどの理念にも通じる、意義のある活動であると考えて参加することにしました。

 ボランティアスタッフ一期生の研修が9月末に終わったばかりですが、これから利用が広がればと思います。

 活動の幅が広がることで、病児保育の待機保育スタッフの空き時間を利用できたり、逆にホームスタートのボランティアスタッフが病児保育にも興味を持っていただけたり、異なる活動間での相乗効果も期待しています。

-活動の本拠を岩倉市にしているのはどうしてですか。

 廣中の父親が運営する社会福祉法人が岩倉市で幼稚園と保育園を運営していて岩倉市になじみがあったことが大きいですが、岩倉市からは、助成金のほかに、病児保育の説明会等の案内を広報誌に載せてもらったり、施設型の病後児保育やホームスタート事業等、積極的にご提案をいただけました。子育てに理解がある自治体だと思っています。

 ただ、他の自治体でも、病児保育等の社会的に意義のある活動で、採算がとれない分野においては、適切な担い手がいれば、活動の援助を積極的にしたいと考えているところは多いのではないかと思います。はんどいんはんども、利用者を岩倉市だけに限定しているわけではもちろんありません。

-はんどいんはんどの活動のやりがいはどのようなところにありますか。

 前向きなところでしょうか。子育てをまち全体で支えられるように、といったビジョンに向けて、スタッフみんなが前を向いています。とても楽しい雰囲気です。

 また、子育て支援は目に見えて感謝されます。社会に役立つ意義ある活動に積極的に参加できるのも、好きなところです。

-苦労したこと、大変と思うことは何ですか。

 財政面での不安以外では、活動方針についてすごく悩みました。

 設立当初、団体の活動方針を決めるにあたって、もっと事業規模を拡大してやっていくか、今の事業規模のまま活動していくかで、意見が激しく分かれました。その過程で、熱心だった事務スタッフが辞めていったこともありました。

 現在は、基本的に今の事業規模のまま地道に活動していくという方針を採っています。

-NPO法人の代表者が弁護士であることのメリットはありますか。

 弁護士としての知識が、保育スタッフの労働条件の決定や、団体の規約の作成などに役に立っています。

 また、弁護士が代表であることで、関係者に一定の安心感、信用を与えることができ、寄付のお願い等をしに行った際、話を聞いてもらいやすいところはあるかと思います。

-はんどいんはんどの活動が弁護士業務に役立ったことはありますか。

 直接的にはないですねぇ。でも、団体を運営することで、中小企業の社長さんなどと話をする際に、団体の運営者として同じ悩みを共有できるというのはあります。また、研修などで話のネタにすることもありますね。ただ、依頼者に活動内容を語りすぎると、「そんなことに時間を使っていないで、頼んだ仕事を早くしてほしい」などと言われそうで(笑)、あまり話はしないようにしています。

-その他の活動内容、今後の展望などありましたら教えてください。

 実は、小さな子どもの段階から中学高校受験までの支援、さらに、就労支援についてまで連続的に関わるのが元々の夢で、いろいろ考えています。

 たとえば、廣中が代表のNPO法人寺子屋道という団体の運営にも関わっています。ここでは、児童自立支援施設の子らに勉強を教える活動の手助けをしています。

 また、フローレンスでは、障害児保育施設も運営していて、その活動も体験したことがありますが、障害の程度が異なる子が一緒に生活することで、障害児のできることが広がるなど、障害児保育のあり方にも感銘を受けたことがありました。将来的には障害児保育施設の運営もやってみたいです。

 その他にも、様々な事情を持った子どもの就労支援にも携わりたいと考えています。ここまでできれば、生まれてから成人するまでの子どもの成長に全部携われるようになります。

-病児保育その他のプロボノ活動について、お考えのことはありますか。

 病児保育の分野は、主にボランティアで成り立っていますが、収益をあげることに否定的な意見が一部であります。実際に、はんどいんはんどでも意見が対立しました。しかし、ある程度収益をあげないと、事業の持続可能性の点で問題があると思います。

 フローレンスの駒崎さんは「社会起業家」と言われていますが、彼が言うには、最古の社会起業家は弁護士ではないか、とのことです。確かに、弁護士は、日々の業務で収益をあげながら、それぞれが、持続可能な公益的活動に取り組んでいます。駒崎さんとこの話をしたことで、当時の悩みが吹っ飛んで、自分のやりたいことをやろう、と思い切ることができました。

-本日は長時間にわたり、インタビューにご協力いただき有難うございました。様々な活動について、楽しそうにお話しをいただき、活動の充実ぶりが印象に残りました。

【お問合せ先】

NPO法人はんどいんはんど

〒482-0043 愛知県岩倉市本町一丁田27-2 こどものまち保育園内  

電話 080-4520-2015  

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