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新構想「5年制ロースクール」の紹介と検討

法曹養成に関する連続研究会
新構想「5年制ロースクール」の紹介と検討

会報「SOPHIA」 平成30年 1月号より

司法問題対策委員会 委員長  鈴木 秀幸

1月12日と1月19日に法曹養成に関する連続研究会を開催した。1月12日は、文科省の新構想について、次のような報告をした。

1 司法改革の当初の法科大学院構想の目的

「司法改革」により2004年4月に創設された法科大学院の目的は、多様な人材を受け入れ、幅広い科目を履修させ、社会における大量の様々な法的需要に応じることができる法曹を、質を落とさずに多数輩出することとされた。国家試験の前段階にもかかわらず、法曹に特化した養成機関と位置づけた。しかし、制度と現実が著しく乖離していた。

2 今回の文科省の新構想の骨子

(1)  2017年に提示された文科省の「法学部法曹コース3年+法科大学院2年」構想は、法学部生に「2年次以降の法学部2年+法科大学院2年」の4年制を設け、非法学部生に法学部2年次編入のほか、直接に「法科大学院2年」に入学する2つのルートを設けている。

法科大学院の半減が予想され、他の大学の法学部4年又は3年の修了者が、残った法科大学院に入学するというルートが設けられる。

各段階の入学、編入学の学生数と選抜方法が難しい。予備試験制には手を触れていない。

(2) 新構想は、「学部段階からより効果的な教育を行うとともに、優れた資質・能力を持つ者が早期に法科大学院に進学する途を検討する」として、法学部に法曹コースを新設し、早くから学生に対し法曹コースを選択させるとともに、法科大学院を現行より1年早期化する制度である。高卒者対象の5年制ロースクールと言えるのではないだろうか。法曹コースの進路変更の自由度が問題となる。

3 弁護士人口と法曹養成に関する現状認識

(1) 新構想検討には正しい現状認識が必要である。弁護士業界は弁護士過剰による経済力の低下(半減)が原因で弁護士の業務において様々な弊害が生じるとともに、弁護士の公共的・社会的任務の遂行が困難になっている。

(2) 志願者層において、優秀で有為な人材が法曹離れを起こして質が低下し、また富裕層出身者とビジネスロイヤー志願者が増大し、志願者層の質が激変している。

(3) 司法試験については、合格判定が低過ぎて、合格者数が多過ぎることによって、法曹の質が確保できていない状況にある。合格者1500人以上及び合格率70%以上という2つの目標設定自体が不適当である。

4 法曹養成に関する制度のあり方

(1) 法曹養成の中核は、法曹による司法修習とOJTであるとすべきである。法学部及び大学院は、研究者自らの研究と研究者養成が十分に行われることが重要であり、学生に対しては、法律実務ではなく、教養と法の基礎理論を修得する課程で足るとすべきである。

(2) 法科大学院の問題は、司法試験の受験資格要件付与という国家試験に関する不平等問題が本質ではないという認識が必要である。

法科大学院制度は、我が国の従来の法系の大学制度、司法修習制度とOJT慣行、研究者の研究と研究者養成などと制度上整合しないものであることが、根本的な欠陥である。

基本的に、法曹資格の取得(司法試験合格)に特化した教育課程の大学院制度は、予備校的であり、大学院としては極めて特殊である。法学部が存在する国の制度としては、韓国を除き、世界に類例がない制度である。

大学における法曹養成は、医師集団と附属病院がある理系の医学部での医師養成と同一視する制度を構想することは適当ではない。

(3) 司法試験は、2~3年の準備で合格する人も、10年以上かけて合格する人もいる。そのために、司法試験制度は、この志願者層の実情に合った公正な試験であることが要求される。優秀で有為な人材を集め、法曹の職務の公共性を保つためには、適正な人口を保てる合格者数に制限することが不可欠である。

(4) 司法修習制度は、戦後すぐの1期から52期まで修習期間は2年間であった。1998年に司法試験合格者が800人程度に増員されて、1999年4月に司法研修所に入所した53期から修習期間が1年半に短縮された。

戦前の養成制度の反省を踏まえ、半世紀以上続いた非常に適切で合理的な制度であった。

中途半端に法科大学院を残そうとすると、前述の制度的批判と「法学部4年+司法修習2年」の復活要求をする機会を失うことになる。

5 法科大学院制度の現状と弊害

(1) 法科大学院制度(と合格者激増)は、憂うべき現状(弊害)の根本的な原因である。

この制度は、法曹の人材の多様化、法の支配と司法の強化、弁護士の公共性と信頼性の向上に役立っているとは言えない。新構想は、憂うべき現状の解決策になっていない。

特典付与と引き換えに経済的負担を強いたことにより、法曹の公共心が希薄化された。

(2) 新構想には、期間短縮、学部と大学院の連携、校数削減などの改善点もあるが、法科大学院自体の根本的欠陥の是正策にはなり得ない。弊害を拡大させ、新たな弊害を生む。学生に職業の早期選択を迫ること(低年齢化)は適当でない。大学が法曹養成の中核であることが強化され、大学の法曹教育の長期化により法学研究と研究者養成がますます犠牲となり、法学と法の支配が衰退することになる。

法科大学院制度は、教育の産業化と法曹のビジネス化の傾向を強め、法学研究及び司法に望ましい結果をもたらしていない。

6 弁護士と研究者の多数意見

法科大学院の廃止か、受験資格要件撤廃だけかの問題であるが、受験資格要件を外したうえで、法科大学院の存廃の判断を各大学の自治に任せるという制度は、国の教育行政や大学制度及び法曹養成制度に関する政策としては、考えられにくい制度である。妥協的で理念を欠き、賛同者も少ない。法科大学院が廃止されない限り、法曹の分断が続き、それが拡大することの深刻さを考えねばならない。

この問題については、法曹人口問題全国会議の2017年9月のアンケート調査結果に会員の意思が十分に示されている。

法科大学院の存廃の質問に対し、廃止55.0%、存続26.1%という回答状況である。また、受験資格制限を撤廃したうえで法科大学院を残すことの質問に、反対49.6%、賛成25.3%の回答である。法科大学院存続の回答が多い弁護士歴5年未満の会員においても、受験資格撤廃後に法科大学院を残すことには、賛成31.5%、反対44.2%と反対の回答が多い。

このように、会員の多数意見は明らかに法科大学院を残さず完全に廃止することであり、逆に、法科大学院の残置論は少数意見である。

法科大学院の教員のうち、研究者であれば、十分な位置づけのない中途半端な教育制度の担い手になることを多くが嫌う。受験資格の特典が否定されれば、法科大学院進学の最大のメリットが奪われ、国からの補助金もなくなって授業料が高くなり、生徒募集もますます困難になる。早晩廃校が予想され、法科大学院生き残りのための理念なき短期の延命策であるなら、廃止政策に転換すべきである。

7 まとめ

法曹の質と職務の公共性を保つためには、司法試験合格者数の適正化、司法修習制度の充実及び適正なOJTの確保が不可欠である。

そのため、法曹養成制度としては、法科大学院を廃止し、旧制度の法学部4年制と給費制の司法修習制度2年を復活するべきである。当然、給費制は、司法試験で人材を厳選(1000人以下)した後であることが前提である。