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愛知から世界へ(47) ウェールズの首都カーディフに留学しています。
会報「SOPHIA」令和7年5月号より
国際委員会 委員 青 木 有 加
1 ウェールズ留学の理由と学んでいること
現在カーディフ大学の修士課程で犯罪学を学んでいます。2017年度から2023年度まで当会人権擁護委員会ヘイトスピーチ条例案策定PTの座長を務め被害実態・対策の調査研究をし、被害者支援をしてきました。2020年頃この問題の対策が進んでいるイギリスに留学することを考えるようになりました。イギリスの犯罪学者がこの問題を研究し政策提言と政府やソーシャルメディアプラットフォーム事業者に助言していることを知りました。2023年に日本語に翻訳され出版されたカーディフ大学のマシュー・ウィリアムズ教授の著書「憎悪の科学 偏見が暴力に変わるとき」(河出書房新社)を読んで、同大学の犯罪学研究者がこの問題の研究に力を入れていることを知り、留学先を決めました。
犯罪学者は各犯罪が発生する原因や影響、警察活動・刑罰・犯罪防止等犯罪に関することについて、データを集めて分析する研究をしています。犯罪学が対象にする犯罪は法学上の犯罪よりも幅広いです。私が学ぶコースでは、犯罪と社会的害悪、研究調査の手法、国際的な犯罪、サイバー犯罪、警察活動・刑罰・犯罪防止の国際比較の授業がありました。
2 困ったこと
1つ目は孤独です。当初カーディフには全く知り合いはいませんでした。2024年6月から8月まで留学生がアカデミック英語を学ぶコースに参加しましたが、同じコースの留学生は第一言語が同じ人同士で固まるため、私は学内でも孤独でした。次第に、渡英直後から通っているキリスト教会、チャリティが主催するFANミーティング、日本在住の知人からの紹介で、学外に友人ができ解消されました。
2つ目は住環境です。大学の寮の環境が合わず8月に民間賃貸に引っ越しました。イギリスの寮や賃貸は自分のベッドルーム以外は同居人とシェアするのが一般的で、同居人との文化・習慣の違いには苦労します。私はイギリス人の同居人から教えてもらって、なるべく合わせるようにしていました。ただイギリスの人にとって当然だったり、親切でしていることが、私にとっては辛く傷つくこともありました。同居人の行動に対する私のリアクションについて不満を言われたので、私の受け止め方を述べたところ「あなたはイギリスの文化を学ばなければならない」と言われ非常に不快でした。こうした体験を東欧出身の友達と分かち合い支えられました。そして留学が終わる2025年9月まで暮らしていいと言っていた貸主が突如家の売却を決断し12月中旬に立退請求をしてきました。日本と異なり不動産の価格が上がるので売買をして資産を増やすことが一般的で法律上借主保護が乏しく私のように立退を経験する借主は多いようです。こうした情報を友人が教えてくれたので冷静に対応することができました。また賃貸借契約をする際に払うデポジットは退去の後に返還されることになっていますが実際は返還されないことが多いそうです。私の場合は交渉してデポジットと最後の賃料の日割分を相殺したのでデポジットの回収は問題になりませんでした。留学後3つ目の今の住居は部屋にキッチン、シャワー、トイレがあり良い環境です。
3つ目は学業です。犯罪学では様々な分野と関連する視点で研究手法・セオリーを学びますので、今まで私が学んできた法学とは違います。そして、私のコースの学生は17名でそのうちおそらく4~6名が留学生ですが、留学生と言っても私以外は全員英語の国や出身国で英語で教育を受けた経験があり英語に不自由がありません。私だけが話の内容がわからないという状況はかなり多いです。授業等の議論だけではなくて、ネイティブのZ世代が使う日常会話表現は知らないものが多いです。さらにわからない原因は英語の問題以外にもあり、そもそも授業の内容が難しくてネイティブでもよくわからないという場合もあります。単位認定の評価は厳しく、単位を取ることに苦労をしています。
3 良かったこと
1つ目は、やはり教育研究内容が充実していることです。マシュー教授からも直接授業を受けることもできましたし、授業の中でヘイトスピーチ・ヘイトクライムについても学びました。それ以外の犯罪に関する授業も非常に興味深いです。イギリスの大学では学生が自律的に学ぶ時間が多いのですが、相談に乗ってもらえますし支援的です。
2つ目は、困難がある時に支えてくれる人たちと出会えたことです。私はキリスト教徒でカーディフでも教会に通っています。教会の人達は話を聞いてくれるだけでなく具体的に助けてくれたり、本当に私を支えてくれる存在です。また楽しい時間も共に過ごしています。教会以外で知り合った友人達にも支えられています。
3つ目は、ヘイトクライム問題に対する政府や大学の対応です。2024年7月下旬からヘイトクライムが多発しました。他の地域に比べれば目立った事件がないカーディフでもヘイトデモがあり、歩道を歩く留学生に向かって車に乗った人が大声で叫ぶという光景を見かけました。ニュースに接した私も怖かったですし、イスラム教徒の学生は体調が悪化し授業を欠席しました。しかし、首相からヘイトを強く批判するメッセージが報道され、大学もヘイトを批判しマイノリティの味方であるというメッセージを発し警備を強化したので、支えられました。
4 最後に
もし留学に興味があるなら進める方向で検討して欲しいと思います。まずは留学に関する情報を収集して必要な準備を進めるといいと思います。イギリスの大学の場合、大学やコースによって特色があります。自分が学びたいことについて力を入れている大学・コースを探してみるといいと思います。イギリスの場合、授業料が非常に高額で、例えば私のコースの場合、2025年入学の学費は24,950ポンドです。そのため資金の準備は非常に重要です。私は大学から授業料のうち3,500ポンド免除の奨学金を得たものの、その余の費用の全てを私費で賄いました。奨学金の情報を集めたり、留学先の大学とコースが指定されてしまいますが日弁連推薦を利用して援助を受けるのも良いと思います。ビザや留学に関する情報は変わるので常に最新情報をチェックしてください。授業で扱うトピックは、地方の街弁の活動に関連しているものが多く、様々な弁護士会の活動を思い浮かべ、それが学びの助けになっています。弁護士になる前に事務として勤務した法テラス、ロースクール、司法修習、当会そして私の所属事務所でお世話になった方々に感謝しています。
写真はカーディフの人気スポットの一つ、ローズパークにて撮影。