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サンパウロでの執務

愛知から世界へ(43)
サンパウロでの執務

会報「SOPHIA」令和2年10月号より

 当職は2019年7月から、ブラジル連邦共和国サンパウロ市所在の国外就労者情報援護センター(CIATE)の専務理事として赴任している。昨年8月の会報に、前任者の永井康之会員がCIATEの概要を執筆したので、異なる視点から以下述べる。

1.現地の日系人が抱える日本法の問題

 現地の日系人が抱える法律問題のひとつに、日本における相続関係がある。例えば、日本の自治体や代理人から日本語の文書が来たが、よくわからないというものである。その内容は、供託書や相続登記未了土地に関するものなど、日本の弁護士であればよく目にするものであるが、サンパウロであると、そもそも日本語が読めないし、読めても、「供託」や「相続登記未了土地」等その意味を理解することが難しい。そして、日本においてこれに対応することは容易であるが、登記でいえば、ブラジルには住民票がなく、したがって印鑑証明書も当然ないので、日本とは異なる対応が必要となる。この場合は、日本の法務省の通達に従って、ブラジルの公証人による署名証明によるなどの方法はあるが、それなりに費用がかかり、財産的価値のない土地だと手続の負担が大きい。

 また、氏名が日本の戸籍とブラジル国の証明書の表記が異なることが多い。例えば、日本の戸籍で恵子とあった場合、「KEEKO」であったり、杉浦は「SUGUIURA」等はまだ良いほうで、漢字名とブラジル名が全く異なることもある。これは、昔、ブラジルで出生証明書を作成する際、口頭で申し出た日本名を、ブラジル人の係員がその発音を聞き取れなかったことが原因だと思われる。この場合、日本人であれば、日本国パスポートのアルファベット欄に2つの名前が併記されていることがあるので、それをもって人物の同一性を証明することができる。

2.コロナ禍のサンパウロ

 サンパウロでも、3月17日から外出自粛要請が発出され、9月27日時点ではいまだ解除されていないが、CIATEや私が住む地域は概ね安定している。日本の報道では、ブラジルは酷いことになっているようであるが、ブラジルは面積の広大な国でサンパウロ州だけでも北海道を除く日本の国土が入ってしまう。

このような国で、その状況を一概に述べるのは難しいが、貧困層の厚さとその状況は日本とは比較にならず、感染者は貧困層を中心に広がっているという。現在は、収束の兆しが見えてきたようであるから、このまま収束することを祈っている。

3.サンパウロにおける生活

 ブラジルでの生活は大変だろうといわれるが、そうでもない。当職は家族を帯同しているが、概ね快適である。私の子どもたちは日本語の通じる日系の幼稚園に通っているし、サンパウロは日本食も豊富で、物価も日本より安い。一般的に、駐在員が居住するマンションは警備員付のゲート、プール及びジムが付いていることが多く、日本より居住環境はいい。確かに、治安は日本より悪いので深夜の外出はできないが、生活上の不都合はそれくらいである。

4.会員として

 会員出身のCIATEの専務理事は私で三代目である。ご存じのように愛知県には日系ブラジル人が多く、数多くの法律問題を抱えている。今後、前任者と協力しつつ日系ブラジル人の支援に関わっていきたい。