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サンパウロ 国外就労者情報援護センターへの赴任を終えて

愛知から世界へ(41)
サンパウロ 国外就労者情報援護センターへの赴任を終えて

会報「SOPHIA」 令和元年8月号より

会 員 永 井 康 之

 

 当職は2015年からブラジル連邦共和国サンパウロ市にある国外就労者情報援護センター(CIATE)に専務理事として赴任し、4年3か月の任期を終えて帰国した。

1.CIATEとは

 1990年の入管法改正によって3世までの日系人が定住者の在留資格によって日本で就労することが認められた。しかし、悪質なブローカーを介して訪日するケースも多く、様々な問題が生じたため、日伯両国政府の外交取決めによってCIATEが設立された。CIATEでは、ブラジル日系団体が運営母体となって、訪日就労を希望するブラジル人に日本の情報を提供するとともに、ハローワークを通じた公的就労経路の提供を行っている。この事業は全て日本国厚生労働省の委託業務として実施され、実務は日本から派遣された専務理事と現在3名の現地職員が行っている。
 リーマンショック前はCIATEを通じて訪日就労する者が多く、ブラジルと日本の雇用慣行に通じた現地駐在経験者が専務理事として派遣されていた。しかし、リーマンショックを機に訪日就労者の数が激減し、日本から帰国したブラジル人の年金相談や、日伯両国にまたがる法律相談の件数が爆発的に増え、2012年からは当会弁護士が派遣されている。

2.当職の取組

 当職が赴任した当初の相談者は年間2000件程度で、その内容は年金相談、渉外離婚、相続、日本における親族の刑事事件、訴訟など多岐に亘っていた。その後、ブラジルの景気の悪化や日本の人手不足の深刻化に伴って、2016年以降再び訪日就労者が増加に転じ、この間の広報活動の成果もあって、年間の相談件数は5000件程度まで増加した。増加した相談を処理するため、研修を行って年金相談のほぼ全てを職員が処理する体制を整えた。
 また、日本で育った日系4世がリーマンショック後に両親に伴って帰国せざるを得ず、成人後に再来日もできないという問題があることから、4世以降に3世と同様の在留資格を認めるようブラジル日系社会から日本政府に対し働きかけを行った。その結果、2018年から日系4世の更なる受入制度が開始した。
 家族で訪日する就労者の増加によって、在日ブラジル人子弟の教育状況の改善が大きな課題となったことから、CIATEで毎年行なっている国際シンポジウムでこの問題を取り上げてブラジル政府関係者に現状を伝え、問題状況のヒアリングに協力した。その結果、2017年6月にブラジル連邦上院で在日ブラジル人子弟の教育問題に関する公聴会が開かれた。これを契機に関心が高まって、日本でも実態調査及び対策が進みつつある。
 上記のような問題について、外務副大臣をはじめ日本政府当局者の来伯機会に繰り返し説明を行って問題意識を共有した。

3.赴任を終えて

 当職の後任として浅野康平会員がサンパウロに赴任した。CIATEの専務理事として弁護士を派遣する理由として、業務上の法律知識の必要性のほか、ブラジルの事情に通じた弁護士を増やして在日ブラジル人に対する司法サービスを強化したいという狙いがあると聞く。国際委員会では引き続きサンパウロへの赴任希望者を募集すると共に、ブラジルへの司法視察旅行や法律事務所での研修を企画している。多くの会員がこうした機会を利用し、在日ブラジル人の司法アクセスの改善に資することを期待したい。