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いじめ予防出張授業を通して -適正手続の観点から-

子どもの事件の現場から(158)
いじめ予防出張授業を通して -適正手続の観点から-

会報「SOPHIA」 平成28年8月号より

子どもの権利委員会 委員 鈴木 愛子

 6月9日、「いじめ予防出張授業を通して-適正手続の観点から-」と題した講義を、愛知淑徳大学教職入門「担任の仕事①:生徒指導 学校でのいじめ」の外部講師として実施してきました。

 普段、子どもの権利委員会が、小学校高学年の児童や中学生を対象として行っている「いじめ予防出張授業」を、教師志望の学生さん達にいじめの予防やいじめが起きた時の教師としての対応について考えてもらうための講義にアレンジするのは初めての試みです。

 せっかくの機会ということで、①「いじめ予防出張授業にも適正手続の視点を盛り込むべき」という持論の実践、②いじめ予防には何より、(いじめを集団による刺激的なゲームのように錯覚させる)いじめを許容する空気を教室に作らないことの二点に重点を置いた講義にチャレンジしてみました。

 上記①の適正手続の視点としては、子ども向けのいじめ予防出張授業でも行う、「いじめられても仕方のない場合はあるか」という問いを、「もし、生徒から、『自分をいじめた子に対して、いじめ返すのもいけないの?』と質問されたら、教師としてどう答えますか?」といった質問に変えて事前アンケートを行いました。

 事前アンケートでは、「いじめが連鎖になってしまうからダメ」といった回答や、「いじめた子と同じレベルに落ちてしまうよ」という趣旨の回答が目立ちました。

 当日の授業では、まず罪刑法定主義とその派生原則を大まかに説明。その上で、何か「悪いこと」をした子どもに対して、「いじめ」でやり返す場合に、ア.本当に何か悪いことは行われたか、悪いことは行われたとしてそれがどの程度の悪いことかを、適切に判断しうるか。イ.いじめが、その子のした「悪いこと」に見合っただけの罰になりうるのか。ウ.どの悪いことに、どれだけの罰を、いつまで加えて良いかを誰がどう決めるのか、といった適正手続的な要請は満たされうるのかを考えてもらいました(「無限定な私刑であるからいじめは許されない」という視点を持ってもらうことを目指しました)。

 いったん、「あの子はなにか『悪いこと』をしたらしい」程度の曖昧な根拠で、「いじめられても仕方がない」とする「教室の雰囲気」が形成されると、その影響は深刻です。

 その雰囲気はともすれば、②刺激的なゲームのように、いつ、誰が、どれだけのいじめの標的になるのか分からない、一つの被害者の椅子を押しつけ合うような、いじめを許容する教室の空気になっていってしまうことを、自分自身のいじめ被害経験をテーマにした詩を紹介しつつ講義をしてきました(「猫を殺した」という濡れ衣を着せられた経験を書いた「名のない猫へ」という詩と、他の子を一緒に嗤って被害者にすれば、自分は被害者の椅子から降りられるよ、というメッセージを暗に受けた「教室の踏み絵」という詩の二篇を紹介しました)。

 講義後には、適正手続の視点は考えてみたことがなく新鮮で説得的だった、将来、教師として子どもに問われた時に話せるようになりたいと言った感想を頂けました。

 今後も、適正手続の視点を盛り込んだ、弁護士ならではのいじめ予防出張授業を、よりブラッシュアップしていきたいです。