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ティーンコート、開廷

会報「SOPHIA」 平成28年8月号より

法教育委員会 委員(少年M役) 鶴見 亮太

1 Mの後悔

後悔先に立たず。このことわざの意味をこれほどかみしめたのは生まれて初めてだった。Mは、後悔していた。

2 ティーンコート

ティーンコートとは、少年たち自身の手により、非行を犯した少年の処遇を決める法廷である(実際に米国の諸州では導入されている)。今日も一人の少年Mの処遇がティーンコートにゆだねられていた。

3 事件の概要

Mは、クラスメイトのSと生徒会長の座を競っていた。しかし、選挙活動中の感触からは、先生からの信頼が厚く、自他ともに認めるほど「優秀」なSが優勢であった。そこで、Mは一計を案じた。一見するとSが警察に補導されているようにも見える写真を撮影し、その写真に「Sに万引き発覚!不良少年S、警察に補導!」というコメントを付して学校のホームページの掲示板に投稿したのだった。事実無根のこととはいえ、あらぬ噂は生徒間で広まり、はたしてMは勝利した。しかし、選挙後にMの犯行が発覚してしまった。

4 S証人尋問

まずは被害少年Sの証人尋問が行われた。弁護人の的確な質問により、Sは自分で自分を「優秀」な人間だと豪語する「イケスカナイ」やつであることがアピールされた。Mが今回間違いを起こしてしまったのは、S側にも原因があったことが法廷で明るみに出て、Mの気持ちは少しだけ、晴れた。弁護人を務めてくれた少年たちの尽力に、Mは深く感謝していた。

5 M本人質問

続いて、加害少年Mの本人質問が行われた。弁護人は、Mの情熱と償いの決意をうまく引き出していた。自分が生徒会長になり学校を「Change!」すると意気込むMに、生徒会長の座を返上させ、再選挙後も立候補しないことを確約させた手腕は、見事だった。

一方、検察官を担う少年たちの質問は恐ろしく厳しかった。Mとしては、すでに精いっぱいの償いを表明したつもりだったが、それが「なぜ」償いになるのかを鋭く追及された。まずは被害者であるSへの直接の謝罪が先ではないか。後悔はしても反省はしていないのではないか。Mは、自らの思慮の浅さを思い知らされた。Mは泣きそうだった。

6 審判

裁判官を背負う少年たちの負担は、相当重たかったと思う。Sは見るからに「イケスカナイ」やつではあるが、法は犯していない。一方、Mは情熱的で一応の反省はしていそうだが、法を犯してしまった。このような中で、どのような処分を下すか、悩みに悩んだと思う。結局、①再選挙をする、②Mは全校生徒の前で謝罪をする、③再選挙後の立候補はMもSも自由とする、という内容を柱とする処分が下った。処分のバランスに頭を悩ませ、知力を振り絞ってくれたことに、心から敬意を表したい。全校生徒の前での謝罪はかなり勇気のいる重い処分だが、Mは、潔く受け入れる覚悟だ。

7 Mの行方

Mは、法廷を出た。空は青かった。開廷してからわずか数時間のことだったが、Mの心持ちはがらりと変わっていた。ここからまた始めよう。そう思った。