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ためになる実務 早くも会社法改正準備が始まりました・・・

会報「SOPHIA」 平成28年7月号より

司法制度調査委員会 副委員長 片岡 憲明

 平成26年に改正されたばかりの会社法だが、将来の改正に向け、既に新たな検討作業が始まっている。

 すなわち、公益社団法人商事法務研究会では、本年1月から会社法研究会が立ち上げられ(現在第7回まで終了)、一線級の学者・実務家が集結し、法改正のための検討課題を洗い出しているところである。

 上記研究会で検討された課題は、いずれ法制審議会で議論されることになるため、上記研究会の検討内容は非常に重要なものと位置付けられる。

 そこで、以下、上記研究会で取り上げられている検討課題の概要をご紹介したい(但し、紙幅の都合上、今回は、上記研究会の第5回までの分とさせて頂く。第6回以降は、随時紹介予定である)。

第1 取締役の報酬について

1. 取締役会への委任の問題

 株式会社では、取締役の報酬額等の決定(会社法361条1項1号、2号)を、株主総会決議で取締役会に委任できると解釈されている。このため、多くの会社では、株主総会決議により、取締役報酬総額の上限を決定しておき、個々の取締役の報酬額の決定は取締役会に委任している。
 昨今、取締役報酬を会社業績に連動させることで取締役に対する動機付けに利用すべきとの提言がなされているが、上記のような取締役会への一任では、取締役に対する動機付けになるような報酬決定が担保できない、という問題点が指摘されていた。

 そこで、株主総会と取締役会とで取締役報酬の決定に関する権限分配を見直したり、報酬に関する開示事項を詳細なものにしたり、事業報告で開示して、株主総会で報酬に関する議論を深める仕組みを作ってはどうか、等の議論がされている。

2. 株式報酬

 パフォーマンスシェア(業績の達成度合いで株式が交付される)やリストリクティッドストック(一定期間譲渡制限がついている株式報酬)のような、業績に連動する株式報酬を取締役に与える場合、種類株式や信託を用いることで、現行法でも導入することも可能である。しかし、実務的な負担や仕組みが複雑であることが問題点として指摘されている。このような指摘を踏まえ、会社法の規律の見直しが検討されている。

 たとえば、リストリクティッドストックを行う場合、譲渡制限株式を使うときは、種類株式を使うことになるので、定款変更が必要となる。これでは手間がかかるが、かと言って、会社と株主との間で株式譲渡制限契約を締結する方法ではその有効性に疑義が生じる。また、信託契約を使う場合には、自己株式取得規制に抵触するのではないかという解釈上の疑義もある。以上のような問題点をふまえ立法で明確化する必要性は高いと言える。

第2 会社補償について

 会社補償とは、役員に対する責任追及によって役員が要した費用等を株式会社が肩代わりして負担することである。

 役員が責任追及を恐れ、過度にリスクを回避すると、結果的に会社の成長が阻害されてしまうため、会社補償に関する規定を会社法上設けるべきと指摘されている。

 現行法では、会社補償に関する解釈論が種々展開されているが、解釈に争いがあるため、立法的措置が必要とされている。立法にあたっては、次のような点が問題となる。

1. 補償の要件

 まずは、補償の要件である。補償「しなければならない」場合と補償「することができる」場合の要件を分けて考えるべきである。

 役員が職務を怠ったことについて悪意又は重大な過失がある場合には、補償してはならないとすべきかも検討する必要がある。

 また、補償に必要な手続等(補償契約の締結の要否、定款の定めの要否、必要な機関の決定、事業報告等における開示の要否等)の整備も必要である。

 なお、経済産業省が事務局を務めたコーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会では、次のような場合には会社補償を行うことができると要件を挙げているので、参考になる。すなわち、①事前に補償契約が締結されていること、②補償契約の締結に際して利益相反取引の承認及び社外取締役の同意(社外取締役全員の同意又は社外取締役が過半数を構成する任意に設置された委員会の同意)を得ること、③補償の対象が、争訟費用及び第三者に対する損害賠償金のうち、職務の執行に関するものに限定されていること(株式会社に対する責任に関しては、争訟費用は含めることはできるが、損害賠償金は含めることができない)、④取締役に職務を行うについて悪意又は重過失がないこと、である。

2. 補償の要件

 まずは、補償の要件である。補償「しなければならない」場合と補償「することができる」場合の要件を分けて考えるべきである。

 役員が職務を怠ったことについて悪意又は重大な過失がある場合には、補償してはならないとすべきかも検討する必要がある。

 また、補償に必要な手続等(補償契約の締結の要否、定款の定めの要否、必要な機関の決定、事業報告等における開示の要否等)の整備も必要である。

 なお、経済産業省が事務局を務めたコーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会では、次のような場合には会社補償を行うことができると要件を挙げているので、参考になる。すなわち、①事前に補償契約が締結されていること、②補償契約の締結に際して利益相反取引の承認及び社外取締役の同意(社外取締役全員の同意又は社外取締役が過半数を構成する任意に設置された委員会の同意)を得ること、③補償の対象が、争訟費用及び第三者に対する損害賠償金のうち、職務の執行に関するものに限定されていること(株式会社に対する責任に関しては、争訟費用は含めることはできるが、損害賠償金は含めることができない)、④取締役に職務を行うについて悪意又は重過失がないこと、である。

3. 補償の対象

 補償の対象をどこまでの範囲とするかは問題である。例えば、訴訟等における防御費用、損害賠償金、和解金、課徴金及び罰金を補償の対象に含めるかどうかである。

 株式会社に対する責任に関するものと第三者に対する責任に関するものとで差異を設ける必要があるかは悩ましい。仮に前者を補償の対象外とする場合には、株式会社と役員が第三者に対して連帯債務を負っており、株式会社が第三者に対して賠償した上で、当該役員に対して求償をするときの求償金については、どのように取り扱うべきかバランス上問題となろう。

第3 D&O保険(directors & officers 会社役員賠償責任保険)

 D&O保険は、多分に利益相反的要素があることから、現行法の解釈として次のような運用がなされてきた。

 すなわち、基本契約部分の保険料は役員報酬としては扱わないが、特約部分(株主代表訴訟分)の保険料は役員報酬として扱い、役員が特約部分の保険料を実質的に負担するというものである。

 ただ、後者について会社が負担するべきとの見解もあり、かかる保険負担の問題に関し、法律で規定するか、規定するならば要件(保険の契約対象となる責任、免責事由)・手続(定款の定めの要否、必要な機関の決定、事業報告等における開示の要否等)をどのように考えるかを検討する必要がある。

第4 取締役会の決議事項に関する規律の見直しの要否及びその方向性

 取締役会の決議事項については、昭和56年改正以降基本的な変更がされていない。

 取締役会の決議事項に該当するか否か基準は必ずしも明確ではないため、会社としては判断に迷うことがある。万が一決議事項なのに付議を怠ると私法上無効となる可能性があるため(相手方が重要な業務執行に該当すること及び決議が無いことを知りまたは知り得べかりし場合は無効とするのが判例)、会社側も慎重になって、取締役会の付議事項が増加し、真に重要な問題に議論を集中できないという問題が生じているとされている。

 したがって、付議事項の明確化や軽微な事項を取締役会に付議させないなどの改正が検討されている。

 もっとも、これによって取締役会の監督機能が失われることは昭和56年改正前の代表者の専横状態の復活を許すことにもなりかねないので、決議事項を限定する場合は、取締役会の機能強化や独立性確保がセットで検討されなければならない。

第5 重要な業務執行の委任

 監査委員等設置会社では、定款で定めた場合あるいは取締役会の社外取締役の数が過半数を超える場合に、重要な業務執行を取締役に委任できるようになっているが、監査役設置会社ではこのような重要な業務執行の委任を認める規定は無い。

 近時、社外取締役を複数選任し、社外取締役が経営者の選定・解職を通じて経営者を監督し、特に重要性の高い事項以外は取締役に判断を委任し、取締役会は監督に専念する欧米流の組織形態(業務執行と監督を分離するいわゆるモニタリング・モデル)の導入が推奨されているが、監査役設置会社でも採用できるようにするか検討されている。

 具体的には、取締役会の構成が社外取締役が過半数ならば、このような大胆な委任も認めてはどうか、と提案されている。

第6 重要な財産の処分及び譲受け又は多額の借財

 事業譲渡では、事業の重要な一部の譲渡の該当性を判断するにあたり、会社法で軽微基準が設けられている。

 そこで、会社法362条4項の重要な財産の処分及び譲受けや多額の借財の該当性についても軽微基準を法律で規定するべきではないかと議論されている。

 最判平成6年1月20日や東京地判平成24年2月21日では、会社法362条第4項の該当性について総合的な判断基準を採用している。

 このような曖昧な基準だと、重要性に乏しい取引も念のため取締役会に上程されることになり、取締役会の監督機能が阻害されることにもなりかねない。そこで量的な軽微基準を設けることが検討されている。

第7 社債管理のあり方に関する検討

 社債に関しては、社債の最低券面額が1億円以上、あるいは、社債権口数が50口未満の場合は、社債管理者を設置しなくて良いとされている。

 現状、社債管理者が設置されないケースが8割程度あるとされている。社債管理者を設置する場合のコストパフォーマンスが悪く敬遠されているのである。とはいえ、社債を管理する責任者が全くいないというのも社債権者にとって不便である。

 そこで、社債管理者を設置する必要の無い社債を対象とし、より簡素な社債管理の制度(社債管理者の権限と責任をより限定した責任者を設置する)を新たに設けるべきではないかと提案がされている。

 なお、債権者集会(裁判所の認可を常に要する社債権者集会決議の規律を不要とするべき、社債の元本減免ができることを認める等)や債権者保護手続に関する改正(債権者集会の決議を経ない個別行使ができるようにする)も検討されている。

第8 新たな電子提供制度の導入

 経済産業省が設置した株主総会プロセスの電子化促進等に関する研究会(以下「電子化研究会」という)は、平成28年4月21日に、株主総会資料についての新たな電子提供制度の整備についての提言を公表したが、これに基づいて株主総会の招集通知等の電子化について検討されている。電子化によって、会社のコスト削減、株主に対する迅速かつ大量の情報提供、株主の検討時間の拡大、等のメリットがあるとされている。

 現在、欧米では招集通知の電子化は大幅に進んでいるが、日本では、殆どが紙ベースの提供となっており、大幅に遅れているという実情がある。

 ちなみに、現在の会社法下でも、株主から事前個別承諾を得れば全ての書面を電子化できるが(会社法299条、301条。但し株主の書面請求は認める)、個別承諾が必須であるため、導入が全く進んでおらず、採用会社も僅少、採用会社での利用実績も僅少という惨憺たる状況である。

 なお、上記制度とは別に、Web開示によるみなし提供制度(定款の定めにより、株主総会の招集通知とともに株主に提供すべき資料の一部の事項をホームページに掲載し、かつ、そのホームページのアドレスを株主に通知することにより、それらの事項が株主に提供されたものとみなす制度。会社法施行規則94条・133条3項、会社計算規則133条4項)もあるが、上場会社の45%程度が採用するも、株主総会関連書類の一部しか電子化できないため、限定的であり、ペーパーレスにはほど遠い。

 研究会では、アメリカやカナダで採用されているNotice and Accessルールを参考にして次のような制度を導入することが検討されている。

  • ① 株主総会の招集に際して株主に対して提供しなければならない情報を全てインターネット上のウェブサイトに掲載する。
  • ② 株主に対し、当該情報を掲載したウェブサイトのURL等を、書面により通知する(この通知を「アクセス通知」という)。
  • ③ ①及び②の措置をとった場合には、株主に対して、①で掲載した情報が適法に提供されたこととする。

なお、電子提供は利便性が高いため、非上場会社にも適用できるようにすべきかどうかについても議論されている。

第9 電子提供制度導入のために必要な手続

 第8のような電子提供制度を導入するために、どのような手続が必要か、については大きく二つの案がある。すなわち、一つは総会決議を経るというものである。株主意思の反映が必要と考えればこの案となる。

 これに対して、企業内部の意思決定(取締役会決議)で足りるとする案もある。こちらは、政府のIT推進方針との整合性やインターネット普及の実情、アメリカ・カナダの制度でも同様であること、を理由としている。

第10 書面で提供するべき範囲

 電子提供制度を導入するにしても最低限紙で提供すべき情報は残る。

 最低限書面で提供すべき事項としては、株主総会の基本的情報(日時・場所・議決権行使手続情報・議題)、会社情報が掲載されたWebサイトのアドレス、議決権行使書面(当面)が挙げられる。これらは、株主としての権利行使の上で最低限紙媒体で送付するものとして、アメリカ等でも送付が求められているものである。

 これ以外の、株主総会参考書類、事業報告、計算書類、連結決算書類、会計監査報告、監査報告等は、電子化して差し支え無いのではないかとされている。

第11 株主による会社に対する書面請求

 電子化を認めるとしても、株主が書面での提供を請求した場合に会社が応じる必要があるかについては、二つ案がある。

 すなわち、一つ目は、法令上は書面請求を認めない(但し、会社内部の自主的取組までは否定しない)というものである。書面請求の余地を残すと結局会社の管理コストが変わらないからである。

 これに対して、株主の利便性を考慮し、法令上書面請求を認める立場もあるが、その場合は、企業実務への影響に配慮し、たとえば、結果的に株主の書面請求に応じられなくても、総会決議の取消事由とならないよう配慮したり、定款で排除できるようにするなど手当てするべきだというものである。

第12 ウェブサイトへの情報の掲載

 株主総会の招集に際して株主に対して提供しなければならない情報をウェブサイトに掲載すべき期間について、どのように考えるか。掲載期間の初日については、アクセス通知の発送日にしたり、末日については、株主総会の日にしたり、総会後3か月~1年が経過する日とすることなどが考えられる。

 ウェブサイトへの情報の掲載につき、電子公告における電子公告調査制度のような制度を設けることについて、どのように考えるか。電子公告における公告の中断に関する規定(会社法940条3項)のような規定を設けるかどうかも検討するべきである。