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愛知から世界へ(30)
「ロンドン国際家族法会議」のご報告 ~家族問題の世界最前線に触れて~
愛知から世界へ(30)
「ロンドン国際家族法会議」のご報告 ~家族問題の世界最前線に触れて~
会報「SOPHIA」 平成28年7月号より
会員 石川 明子
はじめに
7月6日~8日の3日間にわたり、ロンドンで開催された国際家族法会議"Culture,Dispute Resolution and the Modernised Family"に、当会から8名が出席しました。また、同会議の日程に合わせ、有志によって、家族問題を専門に扱う現地法律事務所や家庭裁判所の訪問等が企画され、希望者が参加しました。
ここではまず会議について報告させていただき、各機関訪問については、中島朋子会員に報告をお願いしたいと思います。
会議の概要
会議は、欧米を中心に広く中東やアジア、アフリカからも集まった裁判官、弁護士、学者等が、各国での家事事件の取扱状況や問題点等について発表するもので、発表後には出席者と質疑応答が交わされ、議論が深められていました。夜にはレセプションが催され、多国籍な出席者同士の交流がなされました。
会議の内容
会議で取り上げられたテーマは多岐にわたりますが、主に離婚後の子の養育問題や、一方親による国内・国際間の子の連れ去り問題、ハーグ条約の実施状況、家庭内暴力や子への虐待、これらに関する各国の現状や、裁判外を含むよりよい紛争解決手法についての考察等が中心でした。例えば離婚後の養育問題に関しては、離婚後も共同親権を原則とする欧米諸国では、共同養育が子にとって利益であるという考え方が浸透しており、主たる監護者が子連れで転居する場合にも、子と他方親との面会が妨げられないように、その他方親の同意か裁判所の許可が必要とされている場合が多い。しかし一方で、両親が高葛藤状態であったり、国境を越える人の移動が多いことから離婚後の両親間に行き来困難な地理的距離が生じるなど、共同養育をどのように実施するのが子にとって適切か、裁判所としても判断が難しいケースが多いといった問題が取り上げられていました。
子をめぐるこういった争いが、家族問題の中でも熾烈で解決困難な類型であることは世界共通であると実感し、また、紛争解決に携わる各関係機関が、子の利益をどのように把握し、実現するかということに強い関心を向けていることが印象的でした。
さらに会議では、会議のテーマの一つである"現代家族"の問題として、例えば代理出産や、女性の同性愛カップルが精子提供を受けて出産した場合の複数親問題-同性婚を認める国からの発表-、"文化"に関わる問題として、ユダヤ社会における子の割礼の人権侵害性や、南アフリカにおける幼児婚の慣習問題なども取り上げられていました。
日本とは、家族に関する法制度も紛争解決制度も異なる国々の実情ではありましたが、これらを知ることは、日本における制度や考え方を当たり前として受け止めてよいのか、改めて考える機会となりました。
英国の家族問題に取り組む法律事務所などを視察しました
国際委員会 委員 中島 朋子
ロンドンの法律事務所訪問
INTERNATIONAL FAMILY LAW GROUP LLP(iFLG)は2007年に設立された国際的な家族問題を専門に扱う法律事務所で、パラリーガルを含め16名の専門家が所属しています。
初めに私から日本の離婚制度と離婚後の子どもの養育についてプレゼンテーションをしたところ、ILFG側からは、国際裁判管轄や準拠法について、多くの質問がなされました。また、日本では離婚後に養育費が支払われる比率が低いことや、面会交流の時間が少ないことに大変驚かれました。
次にIFLG側からも同事務所についての説明をしていただきました。イギリスではハーグ条約に関する裁判案件が年間250件から300件発生しており、IFLGでは裁判案件の対応のほか、国際調停も行っているとのことでした。国際調停の手続の運用や、内縁関係と夫婦関係の法律上の差の有無等、活発な議論がなされ、日英における離婚及び子どもの養育の考え方の差が明らかとなりました。
リユナイト訪問
リユナイト(Reunite International Child Abduction Centre)はロンドンから電車で1時間ほど北上したレスターに位置します。同団体は国際間の子どもの連れ去り問題に特化して設立されたチャリティー団体です。24時間体制で(!)当事者に対する電話アドバイス業務に従事し、また国際調停も行っています。IFLGと異なり、ここでの調停員は非法曹であるとのことです。
電話アドバイス業務は「定期的に電話で状況確認をする」「自分からは電話を切らない」「何度でも、いつまでも無料で相談ができる」など、現在の日本では考えられない手厚いサービスを提供しており、スタッフのボランタリー精神に一同感服しました。
裁判所訪問
Central Family Courtは29の法廷を持つロンドンにある家庭裁判所です。同所では、10数名の裁判官と昼食を取りながら日英の家族法比較等について懇談を行ったほか、裁判傍聴もさせていただきました。
同裁判所でイギリス全土の訴訟問題が取り扱われるという点(同所の判断で地方の裁判所に移送されることはあるそうです)や、裁判官のほかmagistrateと呼ばれる法曹資格を持たないパートタイマー裁判官がいるという点が印象的でした。また、私が傍聴した育児に関する裁判では、当事者及び裁判官が議論をしながら積極的に意見を出し合っていた点が興味深く感じられました。
終わりに
各機関への視察を通じ、日本の家族法の考え方が世界標準ではないということを身に染みて感じました。今後ますます国際的な家族問題は増えるものと予想されます。視察で学んだこと、訪問先の方との繋がりを大切にして、今後も業務に邁進したいと考えます。