愛知県弁護士会トップページ> 愛知県弁護士会とは > ライブラリー > 全国一斉労働相談ホットラインを実施

全国一斉労働相談ホットラインを実施

会報「SOPHIA」 平成28年6月号より

全国一斉労働相談相談員 安井 一大

  1.  6月10日、全国一斉労働相談が実施された。時間は、午前10時から午後7時までの9時間である。13名の会員が労働者を取り巻く様々な問題に対応するため、交替をしつつ順次相談にあたった。本年は、NHK、CBC、メ~テレ(名古屋テレビ)の3局のテレビカメラが入り、電話で相談にあたっている様子がニュースで報道された。
     違法な労働を強い、労働者の心身を危険にさらすブラック企業問題が、ここ数年で大きな社会問題となっている。中でも、若者を大量に採用し、過重労働・違法労働によって使い潰し、次々と離職に追い込む新興産業において問題が顕著である。
     更に近年では、学生であることを尊重しないブラックバイト問題も大きな社会的関心事となっている。平成27年11月9日には、厚生労働省も「大学生等に対するアルバイトに関する意識等調査結果について」という資料を公表している。アルバイト経験のある大学生等を対象としたこの調査では、事業主の労働基準法違反等により不利益を被った、学業に支障をきたした等の学生アルバイトの現状・課題が調査・把握されている。実質賃金が低下し、国民の経済的格差が拡大したり、学生であれば学費高騰による奨学金の返済金を稼ぐ必要性が高まっているなど、仕事を辞めるに辞められない者が増加していることが、問題の根深さを語る。
     このような背景もあり、労働相談ホットラインは報道機関も注目する取り組みである。


  2.  相談件数は、全部で52件であった。相談者の属性(アンケートの回答を得たもの)は、正規雇用者が29件、非正規雇用者が20件、労働組合に加入している方が4件、加入していない方が29件であった。労働問題は、正規雇用者、非正規雇用者いずれも抱える問題だが、多くの労働者が労働組合には加入していないという実態がよく分かる。
     相談内容の分類は、契約中途解約(解雇)1件、契約更新拒絶(雇止め)3件、賃金・残業代未払い13件、契約と実際が違うケース4件、いじめ・パワハラ15件、労災1件、就労・若者雇用問題1件、その他11件であった。賃金・残業代未払いと、いじめ・パワハラが突出して多い結果となった。


  3.  私は午前10時から午後0時まで待機し、2件の電話相談に対応したが、そのうちの1件もパワハラに関するものであった。職場で上司から、他の従業員の目の前で仕事の態度を叱責された上、押し倒される、殴られるなどの暴行を受けたという事案である。パワハラの事案は、一般的に、証拠の乏しさから、パワハラ行為の立証の困難性という問題がつきまとう。そのため、まずは一般論としての立証の困難性を説明しつつ、日記をつけたり、パワハラを目撃した職場の同僚とのパワハラに関するメールのやりとりなどは必ず保存すべきであるなどのアドバイスをした。


  4.  電話では相談者の表情が見えず、相談者が所持する資料も見られないなど、相談の難しさを感じた。しかし、労働相談ホットラインは、比較的早期に弁護士のアドバイスを受けることができ、労働者・弁護士双方にとって非常に有意義な機会である。
     上述のとおり、平日にも関わらず多くの相談があった。背景には根深い問題も潜むが、立場の弱い労働者の保護を図るという労働法制の趣旨を実現すべく、弁護士として今後も継続して行うべき取り組みであると実感した。