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刑事弁護人日記(76) 初めての国選弁護
~勾留決定に対する準抗告が認められました~
刑事弁護人日記(76) 初めての国選弁護
~勾留決定に対する準抗告が認められました~
会報「SOPHIA」 平成28年6月号より
会員 坪井 梨奈
1 はじめに
4月に、初めての国選事件がまわってきました。その事件で、勾留決定に対する準抗告を申立てたところ、認容決定が下りました。その時のことについてご報告させていただきたいと思います。
2 事案の概要
被疑事実は、スーパーマーケットで極めて低額な商品1点を盗んだという窃盗の被疑事実でした。被疑者は、店員に現行犯逮捕されています。被疑者は、年金で生活している高齢者であり、家族はいません。前科はあるものの、数十年前の窃盗前科のみでした。
被疑者は、被疑事実については全面的に認めていました。
被疑者が勾留されたのには、次の事情が影響していました。
被疑者は、被疑事実にかかる窃盗事件を起こす数時間前に、別の店舗で同様の窃盗事件を起こして、現行犯逮捕されていました。この時は、警察から任意に事情聴取されるにとどまったのですが、その後被疑事実にかかる窃盗事件を起こしたため、勾留せざるを得ないと判断されたようでした。
3 初回接見
初回接見に赴き、被疑者から話を聞いたところ、被害店舗に弁償をしたいが手持ちの現金がない、しかしながら、家に帰れば被害弁償金を用意できるとのことでした。
被疑者は身寄りがなく、勾留された状態では被害弁償をすることができません。したがって、被害弁償をするためには身柄釈放の必要性があると考えました。
4 準抗告申立
準抗告申立にあたっては、現行犯逮捕の事案であること、すでに証拠収集が終わっていること、事案軽微で軽い処分が予想されることなどから、勾留の理由がないことを主張いたしました。加えて、被疑者に被害弁償の意思があるものの、所持金がないため身柄を拘束されたままでは被害弁償が不可能であること、身柄を釈放されれば被害弁償が可能であるため、身柄釈放の必要性が高いことを主張いたしました。
5 認容決定
準抗告申立は認容され、原裁判取消し、検察官の勾留請求が却下されました。決定の理由は、勾留の理由は一応認められるものの、事案が極めて軽微であることからすれば、身柄拘束の不利益を超えるほどの勾留の必要性は認められないというものでした。
6 おわりに
釈放された時点で国選弁護人ではなくなったものの、被害弁償の手助けはするつもりでした。しかしながら、被害店舗には被害弁償を拒否されてしまいましたので、結局被害弁償は実現しませんでした。
後日、年金受給者で被害弁償がすぐに出来ない場合には、地域の福祉機関の支援を活用することも考えられるとのアドバイスをいただきました。
被疑者は、不起訴処分になったとのことでした。しかしながら、何らの助けもなく自らの力のみで更生することは、極めて難しいのではないかと思われます。再犯防止のためにも、被疑者が地域の福祉機関の支援を受けられるような体制を整えることができれば良かったと思いました。