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共謀罪法案の問題とは

会報「SOPHIA」 平成28年4月号より

秘密保護法対策本部 委員   浮葉 遼

1 はじめに

 共謀罪法案とは、犯罪の合意をしただけで処罰の対象とする法案である。当該法案の具体的な問題点を把握するため、4月22日、衆議院第二議員会館において開催された共謀罪創設反対を求める院内学習会に参加した。同学習会は、立命館大学大学院法務研究科の松宮孝明教授による共謀罪法案の刑事法上の問題点についての講演が中心となって行われた。

2 条約批准との関係

 政府は、平成27年11月に発生したパリのテロ事件をきっかけに、テロ対策としても、国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約(以下、「組織犯罪防止条約」という)を批准するためにも、共謀罪法案が必要であると説明するようになった。

 しかし、組織犯罪防止条約が規制の対象としている犯罪は、マフィアや麻薬の密輸、人身売買などを繰り返す集団の行う経済犯罪であり、宗教的・政治的目的で行われるテロ行為は該当しない。また、諸外国を調査しても、同条約を批准するために新たに広範な共謀罪立法を行った国はほとんどないとのことであり、テロ対策、条約批准は共謀罪制定の理由とならない。

 加えて、松宮教授は、新たな観点からも条約批准の問題を指摘した。組織犯罪防止条約は、犯罪の国際化が進み、犯罪集団が共謀をした国と実行をした国とが異なる現状に鑑み、どちらの国でも処罰できるようにすることを狙いとした条約である。同条約16条は犯罪人の引渡しについて定めているが、死刑にあたり得る犯罪人について、死刑廃止国は、日本への引渡しを拒否することが考えられる。つまり、同条約の目的を達成するには、共謀罪云々よりも、まず死刑の存廃について十分な議論をしなければならないことになる。

3 共謀罪法案の問題点

 共謀罪は、我が国の刑法理論上、共謀者の処罰には共犯者の実行行為を要することと明らかに抵触している。のみならず、実行行為を要さず合意だけで処罰するとなると、合意の内容が犯罪にあたるか否かを判断するため、通信傍受などプライバシーに立ち入った監視が日常的に行われ、人権が侵害されることが懸念される。

 こうしたことから、共謀罪は過去3回法案提出があったものの全て廃案となっている。

 これを受けて修正案では、共謀罪の処罰にあたり、「共謀に係る犯罪の実行に必要な準備その他の行為が行われたこと」(いわゆる顕示行為)を要することが検討されている。しかし、松宮教授は、顕示行為を厳しく考えていけば、共謀共同正犯との差が無くなり共謀罪法案の創設は意味をなさなくなると指摘する。反対に、顕示行為を緩く考えていけば上記の人権侵害の恐れを払拭できないであろう。結局、顕示行為を要求しても共謀罪が必要という結論には繋がらない。

 また、日本では、重大犯罪を未然に防止するためのシステムが十分に構築されている。例えば、爆弾の取扱いについての規制もあるし、アメリカでは銃の所持は適法であるが日本ではそれ自体が犯罪となる。このように、既にテロ等を未然に防止することは可能であり、共謀罪の創設は必要ない。

4 おわりに

 参加した国会議員は2名のみであり、関心の低さが窺われ残念だった。しかし、共謀罪法案の最新の議論を知ることは大変有意義であった。これをどのように市民に伝えるかが今後の課題である。